Diary ～あなたに会いたい～

【ゆづると恭介】

手探りでデスクのライトをつけてみれば、

ホテルのサービスメニューが書かれている

らしい紙が一枚。けれど、目に飛び込んで

きたのは、文字が綴られたメニュー一覧ではない。

そこには、ベッドに眠る、俺がいた。

「これ……ゆづるが？」

信じられないほど、リアルに描かれた自分の顔を

指でなぞる。顔を埋める枕の質感から、

閉じられたまつ毛の艶と影、無造作に流れる

髪の一本一本まで、手で触れられそうなほど

リアルに描かれている。信じられなかった。

俺が眠っていたのは、ほんの一時間ほどだ。

その間に、彼女はこの画を描いたことになる。

俺には絵心というものがなかったが、素人目に

見ても、この画は天才的だと思えた。

眠っている自分を、じっと見つめる彼女の

眼差しを想像しながら、俺はその紙を手に取った。

どうしてゆづるがこれを描いたのかは、わからない。

なぜ、この画を残していったのかも。

ただの気まぐれ、かもしれない。それでも……


俺は息をついてドアの方を見やった。

やはり、忘れられそうに、なかった。


出来ることならもう一度、会いたい。


結婚には懲りても、まだ女には懲りていない

らしい自分に、自嘲の笑みが浮かぶ。

まだ彼女の感触が残る唇を舐めると、

微かに口紅の味がした。



                          　　 ２０××．１０．１（日）


昨日、あの人によく似た男に会った。

あんまり似てるから、驚いたけど、

でも、やっぱり違った。

写真、ポケットアルバムに入れたんだね。

幸せならそれでいいよ。大切にね。

今夜は家にいます。何も心配しないで。