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【一輪の恋】

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                       20××.6.20(月)

今日は、ちょっと嬉しいことがありました。

白い花束を買ってくれた彼が、

またお店に来てくれました。

とても優しい目をした、誠実そうな人です。

また明日来ますと言っていたけれど、もしかしたら、

お花を贈りたい女性がいるのかもしれません。

トルコキキョウの花言葉は知らないようでした。

永遠の愛、っていう素敵な花言葉があるお花を

彼から貰える女性は、きっと幸せでしょうね。


507、511、520、563、570、619

了解しました。水曜の夜までに用意します。




カチャッ-----


差し込んだタイムカードを引き出す。

5:33という、やや薄目の印字を確認して、

僕は壁掛けのタイムカードラックに戻した。

「お疲れさま」

斜め後ろから田辺さんの声がしたので、

僕は振り向いて「お疲れさま」と笑う。


カチャッ-----


僕に続いて彼女もタイムカードを押す。

相変わらず薄目のインクが5:34と数字を刻んだ。

僕たちは自然に肩を並べ、図書館の裏門を出て

歩き始めた。


「ねぇ。便箋、役に立った?」

歩き出してすぐ、彼女が問いかけてきたので、

僕は思わず吹き出してしまった。

僕の話を聞きたくてウズウズしている様子が

朝から見て取れたので、待ちかねたような彼女の

質問が可笑しかったのだ。

「ごめん。書いてはみたんだけど、結局、

迷って渡せなかったんだ。これ、返すよ」

鞄のサイドポケットから取り出した、あの便箋を

渡す。すると、田辺さんは複雑な顔を僕に向けた。

「また、チャンスはあるでしょ?

 遠野君、持ってていいよ」

受け取ったまま、便箋をしまおうとしない彼女に、

僕は笑って首を振る。

「ありがとう。でも、僕なりに

頑張るつもりだから、大丈夫」

「そうなの?」

隣を歩く田辺さんの顔が瞬時に明るさを取り戻して、

また、キラキラと目が輝き出した。

そんな彼女を、横目で捉えて頷く。そして僕は、

今日もこれから彼女に会いに行くのだという事を話した。

「いいなぁ、そういうの。恋してる、って感じ!」

両手で頬を押さえて、ぴょんぴょん、と、

小さく跳ねる田辺さんに、僕は、しっ、と唇に

人差し指をあてた。周囲の視線が気になる。
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