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第一部:恋の終わりは

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 紫月は信じられない思いでその人を
見つめると、堪えきれずに彼の元に駆け
て行った。

 「レイ!!」

 彼の腕に飛び込んだ刹那、紫月は会い
たくて仕方なかったその人の名を呼んだ。

 応えるように、自分を抱きとめた腕が
きつく背を抱き締める。

 息が苦しくなるほど強く抱き締めると、
やがてレイは肩越しに掠れた声を発した。

 「やっぱり、来てくれた……」

 ほっとしたように、けれど、どこか確信
めいて言ったそのひと言に、紫月は抑えて
いた感情が蘇り、ゆっくりと顔を上げる。



-----言いたいことは山ほどあった。



 どうして自分を置いて行ってしまったのか。
 何であの執事に“嘘”なんてつかせたのか?
 もし、あのまま自分が諦めてしまったら、
どうするつもりだったのか?

 一度口を開いてしまえば、言葉は止まり
そうになかった。

 だから、「どうしてこんなことしたのよ」
と、そのひと言にすべてを込めることにする。

 そうして、それを口にしようとした紫月の
唇は、それさえも告げられないままレイに
塞がれてしまった。

 「……っ」

 突然、柔らかな温もりが落ちてきたかと
思うと、離れていた時間を埋めるかのよう
にレイが唇を貪る。急くように唇を割って
入ってきた舌は熱く、すべてを奪い尽くす
ように激しく紫月を求める。

 その濃厚な口付けに、立っていられなく
なった紫月は、息を苦しくさせながらレイ
にぶら下がるようにしてしがみついた。
そしてようやく、長い長い口付けから解放
されると、紫月は肩で息をしたままか細い
声を吐き出した。

 「どうして……こんなことしたのよっ!」

 やっと口にできた言葉は、涙に揺れている。

 別れるつもりなどないのだと、今のキスで、
向けられる眼差しでわかる。

 わかれば、それは胸を焦がすような怒りに
変わった。

 「……ごめん」

 緩く息を吐きながら、困ったような笑みを
浮かべながら、レイが紫月の顔を覗く。

 そして、今触れあったばかりの唇を親指で
撫でながら、言った。

 「でも、少しでも早く紫月の“心”が欲しかっ
たんだ。こうでもしないと、君は彼を心に残し
たまま、僕と共にイギリスに渡っていただろう
から……」

 その言葉を聞きいた紫月は、それ以上レイ
を責められなくなってしまう。レイの言う
通り、共に生きてゆく決心は出来ても、
その心のどこかには“彼”の面影が残って消え
なかった。

 だから、レイはこんな賭けに出たのだ。

 もしかしたら、自分を追いかけてこない
かも知れないという不安を抱きながら。

 けれど今、彼の思惑通り、紫月の心は彼で
埋め尽くされている。
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