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第一部:恋の終わりは
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「そうね、私もそう思うわ。人生は良い
時ばかりじゃない。きっと、思いも寄らな
いことが起こることだってある。それでも、
大切な人の手を離さないで一緒に乗り越え
ていく。そうやって、二人でゴールに辿り
着ければ、それが一番幸せなんだと思うわ」
決して茶化すことなく、真剣にそう答え
た紫月の手を握りしめ、レイが目を細めた。
対面に座っているはずの彼の瞳が、とて
も近くにある。その彼の瞳に映り込む自分
は、満たされた顔をしている。
「やっぱり、僕たちは気が合いそうだね」
そう言って笑みを深めると、レイは紫月
の手を引き寄せ、そっと左の薬指に唇を
あてた。じん、と身体の芯が痺れる。
-----その手を離さないで欲しい。
などと頭の片隅で思えば、どうしたって
頬は上気してしまう。
ささやかな温もりを指に残し、レイの手
が去ってゆく。紫月は、知らず止めていた
息を細く吐きながら、彼の温もりを留める
ように、自分の手を包んだ。
「紫月。そろそろ、小腹空かない?」
唐突に、そんなことを言ってレイが席を
立ったので、紫月はぎこちなく頷いた。
「ええ、空いたかも」
そう答えて部屋の時計に目をやれば、
時刻はちょうど正午を過ぎている。
紫月も立ち上がった。
「持ってきたケーキ、切りましょうか?」
「もちろん、紫月のケーキも美味しく
いただくけど、その前に良かったらさ、
カップラーメンでも食べない?」
「えっ、カップラーメン???」
本当に、この人は何を言い出すかまった
く予測がつかない。こんな素敵なマンショ
ンの一室で、二人きりの甘い空間で、なに
が嬉しくてカップラーメンを啜らなければ
ならないのか?紫月はその疑問のままに眉
を寄せる。レイはそんな紫月を見やりなが
ら、可笑しそうに笑っていた。
「紫月、カップラーメンを食べた経験は?」
「あるわ。イギリスにいる時、研究で忙し
かったから、試しに買って食べてみたの」
「そうなんだ。じゃあ、イギリスのカッ
プ麺の不味さを知っているんだね!」
「ええ、大きな声では言えないけど。変
にスープが酸っぱくて、ドロドロして脂っこ
くて。もう二度と食べたくないと思ったわ」
当時のことを思い出しながら、紫月は肩
を竦める。買い置きが出来るし、湯を沸か
すだけで簡単に食べられるなら、と買って
みたが、しばらく気持ちが悪くて大変だった。
「確かに。僕も母国の味覚を悪く言うつ
もりはないけど、あれは史上最悪の不味さ
だね。だからさ、日本に来て初めてカップ
麺を食べた時は感動したんだ。自分が想像し
ていたものと、まったく違っていたから。
やはり、日本の食は世界でもトップレベル
なんだと悟ったよ。たかがカップラーメン
がこれだけ美味しいんだから」
時ばかりじゃない。きっと、思いも寄らな
いことが起こることだってある。それでも、
大切な人の手を離さないで一緒に乗り越え
ていく。そうやって、二人でゴールに辿り
着ければ、それが一番幸せなんだと思うわ」
決して茶化すことなく、真剣にそう答え
た紫月の手を握りしめ、レイが目を細めた。
対面に座っているはずの彼の瞳が、とて
も近くにある。その彼の瞳に映り込む自分
は、満たされた顔をしている。
「やっぱり、僕たちは気が合いそうだね」
そう言って笑みを深めると、レイは紫月
の手を引き寄せ、そっと左の薬指に唇を
あてた。じん、と身体の芯が痺れる。
-----その手を離さないで欲しい。
などと頭の片隅で思えば、どうしたって
頬は上気してしまう。
ささやかな温もりを指に残し、レイの手
が去ってゆく。紫月は、知らず止めていた
息を細く吐きながら、彼の温もりを留める
ように、自分の手を包んだ。
「紫月。そろそろ、小腹空かない?」
唐突に、そんなことを言ってレイが席を
立ったので、紫月はぎこちなく頷いた。
「ええ、空いたかも」
そう答えて部屋の時計に目をやれば、
時刻はちょうど正午を過ぎている。
紫月も立ち上がった。
「持ってきたケーキ、切りましょうか?」
「もちろん、紫月のケーキも美味しく
いただくけど、その前に良かったらさ、
カップラーメンでも食べない?」
「えっ、カップラーメン???」
本当に、この人は何を言い出すかまった
く予測がつかない。こんな素敵なマンショ
ンの一室で、二人きりの甘い空間で、なに
が嬉しくてカップラーメンを啜らなければ
ならないのか?紫月はその疑問のままに眉
を寄せる。レイはそんな紫月を見やりなが
ら、可笑しそうに笑っていた。
「紫月、カップラーメンを食べた経験は?」
「あるわ。イギリスにいる時、研究で忙し
かったから、試しに買って食べてみたの」
「そうなんだ。じゃあ、イギリスのカッ
プ麺の不味さを知っているんだね!」
「ええ、大きな声では言えないけど。変
にスープが酸っぱくて、ドロドロして脂っこ
くて。もう二度と食べたくないと思ったわ」
当時のことを思い出しながら、紫月は肩
を竦める。買い置きが出来るし、湯を沸か
すだけで簡単に食べられるなら、と買って
みたが、しばらく気持ちが悪くて大変だった。
「確かに。僕も母国の味覚を悪く言うつ
もりはないけど、あれは史上最悪の不味さ
だね。だからさ、日本に来て初めてカップ
麺を食べた時は感動したんだ。自分が想像し
ていたものと、まったく違っていたから。
やはり、日本の食は世界でもトップレベル
なんだと悟ったよ。たかがカップラーメン
がこれだけ美味しいんだから」
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