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第一部:恋の終わりは

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 いつの間に、こんな遠くまで来たのか?
 日常から解放された素朴な風景に、ほっ
と心が和んでしまう。そうして、車窓に
映り込む自分の顔も、ずいぶんと穏やか
だった。

 紫月はラジオから流れる懐かしい洋楽を
聴きながら、彼と他愛もない話をしながら、
農場へと向かったのだった。







 「うわぁ~、空が広い」

 長旅から解放され車から降り立つと、
どこまでも続く青い空と、その下に広がる
長閑な田園風景に、紫月は感嘆の声を上げた。

 レイに連れられてやって来た“ごーるど
ファーム”は、南アルプスと中央アルプスに
挟まれた、標高850mの純高冷地だ。見渡す
限り田畑が広がり、大地に根を下ろした野菜
が青々とその地を染めている。

 空気は冷たかったが、陽射しは暖かく、
風も凪いでいる。これなら、心ゆくまで
収穫体験を楽しめそうだった。

 「あなたの農場、凄く広いのね。驚いたわ」

 子供のようにワクワクしながら、隣に立っ
たレイを見上げると、彼は両手を腰にあて
遠くを見やる。陽に照らされたブロンドヘア
が、キラキラと光っている。

 「長野は地形が南北に細長いから、四季の
変化に富んでいて味の濃い野菜が採れるんだ。
だから、うちは父の代からここで農場を経営
してる。広さは15ヘクタールあるよ」

 「……15ヘクタール」

 いまいち、その広さがわからずに紫月は
反芻する。きっと、東京ドームが7つとか、
8つとか入るくらいの広さなのだろう、と
勝手に解釈していると、突然、背後から男性
の声が聞こえた。

 「こんにちは」

 その声に振り返ると、よく日に焼けた中年
の男性が立っていた。白いキャップを被り、
少し汚れたタオルを首から下げている。

 レイは、ああ、と含羞はにかむと彼に向かって
手を伸ばした。

 「藤井さん。忙しいところ、押し掛けて
しまって悪かったね」

 握手を交わしながらそう言うと、彼は人
の良さそうな笑みを浮かべて首を振った。

 「いやいや。この時期はそれほど忙しく
はないですから、お気遣いは要りませんよ。
それよりどうしますか?さっそく、畑へ
行きますか?お連れさまが疲れてないなら、
すぐに準備しますが」

 そう言って、ちらりと彼が自分を見たの
で、紫月は会釈する。ずっとシートに座って
いたから少々身体は強張っているが、疲れて
はいない。紫月はレイを見上げ、言った。

 「私なら大丈夫よ。農作業をするなら、
陽が高くて暖かいうちがいいでしょう?
すぐに始めましょうよ」

 「うん、そうしよう。藤井さん、彼女
に必要なものを揃えてくれるかな。僕たち、
何も食べないで来てしまったから、お腹も
空いてるんだ」

 くすくす、と、肩を竦めてそう言った
レイに、藤井さんは、そうですか、と苦笑
いする。時刻はもうすぐ1時だ。

 ペットボトルのお茶を飲んだきりのお腹
は、鳴ってしまいそうな程に空いていた。
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