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まもりびと
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「どうぞお掛けください」
ドアの前に突っ立っていた僕に、医師が声
を掛ける。僕は言われるまま椅子に腰かける
と、眼鏡をかけたその医師に訊ねた。
「あの、楠木院長はお休みですか?実は僕、
院長先生に来るように言われてここに来たん
です」
そう言うと医師は眉を顰め、ゆるりと首を
振る。
「私が院長の楠木ですが」
「えっ?でも僕が会ったのは白髪の男性で、
ここのクリニックの院長だと」
訳がわからぬまま不躾なことを口にした僕
に、医師が「ああ」と目を細める。その目尻
が断崖で会った先生とよく似ていて、僕は息
を呑んだ。
「あなたが会ったのは私の父である先代の
院長でしょう。もっとも、父は去年亡くなっ
たので、いまは私がこのクリニックの院長を
務めていますが」
信じがたいその言葉に、全身の肌が粟立つ。
僕は動揺から席を立ちあがると、震える声
で言った。
「やめてください、そんな冗談。亡くなっ
てるなんて、そんな訳ないじゃないですかっ。
僕はあの人に会ったんだ!それに、煙草の匂
いだって」
どきどきと鼓動を鳴らしながら声を荒げた
僕に、医師は穏やかに頷く。そうしてデスク
に肘を付くと、両手を組んで言った。
「あなたはあの断崖で父に会ったんですね。
でもね、父は本当に亡くなっているんです。
多発性骨髄腫を患ってね。あの崖で父に会っ
たと言ってこのクリニックを訪れる患者は、
あなたで何人目だろうか?生前、父は良く口
にしていたんです。自分は『まもりびと』に
なるのだと」
「まもり、びと?」
遠い目をしてそんなことを言うので、僕は
ふらりと椅子に腰かける。すると、医師は
笑みを深めて頷いた。
ドアの前に突っ立っていた僕に、医師が声
を掛ける。僕は言われるまま椅子に腰かける
と、眼鏡をかけたその医師に訊ねた。
「あの、楠木院長はお休みですか?実は僕、
院長先生に来るように言われてここに来たん
です」
そう言うと医師は眉を顰め、ゆるりと首を
振る。
「私が院長の楠木ですが」
「えっ?でも僕が会ったのは白髪の男性で、
ここのクリニックの院長だと」
訳がわからぬまま不躾なことを口にした僕
に、医師が「ああ」と目を細める。その目尻
が断崖で会った先生とよく似ていて、僕は息
を呑んだ。
「あなたが会ったのは私の父である先代の
院長でしょう。もっとも、父は去年亡くなっ
たので、いまは私がこのクリニックの院長を
務めていますが」
信じがたいその言葉に、全身の肌が粟立つ。
僕は動揺から席を立ちあがると、震える声
で言った。
「やめてください、そんな冗談。亡くなっ
てるなんて、そんな訳ないじゃないですかっ。
僕はあの人に会ったんだ!それに、煙草の匂
いだって」
どきどきと鼓動を鳴らしながら声を荒げた
僕に、医師は穏やかに頷く。そうしてデスク
に肘を付くと、両手を組んで言った。
「あなたはあの断崖で父に会ったんですね。
でもね、父は本当に亡くなっているんです。
多発性骨髄腫を患ってね。あの崖で父に会っ
たと言ってこのクリニックを訪れる患者は、
あなたで何人目だろうか?生前、父は良く口
にしていたんです。自分は『まもりびと』に
なるのだと」
「まもり、びと?」
遠い目をしてそんなことを言うので、僕は
ふらりと椅子に腰かける。すると、医師は
笑みを深めて頷いた。
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