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第三部:白いシャツの少年

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 もちろん、これから先はそういう関係
に発展するかも知れないし、もしかしたら、
口にしないだけで互いに想い合っている
のかも知れないけれど。千沙はあえて、
二人の気持ちを聞くことはしなかった。

 と言うより、知りたくなかった。

 「幼馴染以上、恋人未満という感じじ
ゃないでしょうか。二人の気持ちを聞い
たことがないので、わかりませんけど」

 その言葉に、意外そうな顔をして御堂
が訊く。

 「気にならないんですか?あなたは」

 「ええ、特には。もしそうと報告されれ
ば、姉として祝福しますが」

 「……なるほど。なら良かった」

 「どういう意味ですか?」

 「いえ、気にしないでください。
それより……」

 「良かった」の意味がわからず眉を顰
めた千沙に、御堂が漆黒の鏡となった窓
を向く。千沙も彼の視線を追って窓を
向けば、くっきりと二人の姿が映り込ん
でいる。

 「僕たちもお似合いだと思いませんか?
僕には、あなただ。そう思ったから、僕は
あなたとの結婚を快諾したんです。あなた
は論理的で自戒心があって、不確かな感情
に流されることがない。僕も同じです。
長い人生を共に歩んでいくパートナーには、
そういう相手が相応しいと思いませんか?」

 決して愛の告白ではなく、結婚という
契約を共に交わすものへの賛辞のように
述べて、御堂が笑みを浮かべる。

 その言葉に心がときめくことも、胸が
締め付けられることもなかったけれど、
「僕には、あなただ」という言葉には
頷けた。


――堅物教師と死神博士。


 これ以上相応しい組み合わせは、
ないに違いない。

 「そうですね。私もそう思います」

 自戒の念も込めてそう答えると、千沙は
漆黒の鏡越しに笑みを返した。満足そう
に御堂が頷く。メタルフレームの眼鏡の
奥にある瞳が、安堵したような色を映し
た気がした。

 「そろそろ行きましょうか」

 「はい」

 静寂に包まれた廊下を再び歩き出した彼
の隣に並ぶと、千沙は「これでいいのだ」
と心の内で呟き、遠くを見据えたのだった。







 「ヨーロッパ諸国の主権国家体制と市民
革命。ここを明後日の小テストに出すので
復習してくること。口が酸っぱくなるほど
言っているが、人は2~3日で覚えたこと
の80%を忘れてしまう。だから、100%に
近づけるためには定期的な復習が不可欠だ。
世界史の暗記量は膨大だが、流れさえ理解
してしまえば高得点が望める。難関大を
志望するものは特にそれを肝に銘じて学習
するように。以上!」

 凛とした声でそう言うと、千沙は両手を
教壇について、生徒たちを熟視した。

 幾人かの生徒がその言葉に頷き、幾人か
の生徒が終礼の鐘の音に緊張を解いている。


――6時限目の世界史。


 大学受験の主要科目でない世界史は、
他校なら堂々と内職する生徒も多いだろ
うが、難関大志望者の多いこの学園では
選択する生徒がそりなりに多く、また
千沙が独自に作成している穴埋め形式の
小テストが本番によく出題されることか
ら、熱心に耳を傾ける生徒が多かった。
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