罪の在り処

橘 弥久莉

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第五章:罪の在り処

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 「彼女が連れ去られた。偽のイベントに出
掛けたまま連絡がつかないんだ。きっと浅利
伴人が拉致したんだと思う。彼はヒカリ電気
の防犯カメラがダミーだということを知って
いた。店に仕掛けられていた盗聴器もさっき
見つけた。浅利は早川永輝の仮釈放も、姓が
変わったことも盗聴で知ったんだろう。あの
手紙の送り主は、浅利伴人だ」

 頭に浮かぶままそう告げた僕に、マサが息
を呑む。

 『……ちょっと待て、手紙の送り主が浅利
伴人で、彼女が拉致された?浅利というのは
確か、防犯カメラに映ってたあの男だよな?
古書店に出入りしてるとかいうコンサル会社
の営業の。まさか!?』

 僕の言葉にマサが思考をフル回転させる。
 僕は、同じ答えに辿り着いたらしい親友に
頷いた。

 「浅利伴人は、当麻卓だ。彼は間違いなく
生きてる」

 『まずいな』

 電話の向こうでマサが舌打ちする。
 僕の言葉を聞いた二人のお爺さんは卒倒し
そうなほど、青ざめていた。が、いまはパニ
ックを起こしている場合じゃない。

 浅利伴人が当麻卓だと分かった以上、事は
一刻を争う。僕は、ふと、病院での彼女との
会話を思い出し言った。

 「マサ、携帯の電波から彼女の位置情報を
割り出せないか?」

 『もちろんそれは可能だが、犯人が携帯の
所有に気付かないとは考えづらいな。拉致す
る際に必ず破棄すると思うが』

 「僕もそう思う。だけど、彼女は通話用と
財布用、二台の携帯を持っているんだ。もし
彼女が二台とも持ち歩いてくれていて、浅利
がそのことを知らなければ……もしかしたら」

 藁にも縋る思いでそう言うと、すぐにマサ
が動いてくれる。

 『わかった。携帯会社に××の開示を求め
るから×××番号を教えてくれ』

 プッという音と共にまたマサの声が消える。
 だが会話の脈絡から聴こえなかった部分を
脳内で補うと、僕は横に立つみちくさ爺さん
に言った。

 「お爺さん、佐奈さんの財布用携帯の番号
を教えてもらえますか?僕は通話用の番号し
か知らなくて」

 「わわわ、わかった。すすす、すぐに調べ
てくる」

 動揺にカタカタと奥歯を鳴らしながら言う
お爺さんに、僕もついてゆく。古書店に戻り
電話帳から彼女の番号を伝えると、『お前は
そこで待ってろ』と言い置いてマサは電話を
切った。



 ◇◇◇



 「あの浅利さん、いまのところ右折するん
だったんですけど。もし道がわからないなら
運転変わりましょうか?」

 車にカーナビが付いていないことを申し訳
なく思いつつ、彼の顔を覗く。まっすぐ前を
見据える彼の眼差しは、なぜか凍っているよ
うに感じられて、返事をしない彼にわたしは
さらに眉を顰めた。
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