罪の在り処

橘 弥久莉

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第五章:罪の在り処

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 「ここか」

 開け放たれた白木の門から中を覗く。
 江戸時代中期に建てられた古民家を園内に
移築したという建物は、その当時の暮らしを
彷彿とさせるほど見事に復元されている。が、
どういう訳か、門をくぐり中に入ってみても
人影ひとつ見当たらない。

 「あれ、早く来過ぎたのかな?」

 僕は腕時計を見やると、フェスティバルの
開始五分前だというのにガランとしている古
民家に足を踏み入れた。

 開園時間は誰でも無料で見学できるという
そこは、入り口の戸も障子も全部開け放たれ
ている。縁側に回ってみれば、歳月を感じる
座敷や土間が続いて見えて、けれどやはり、
彼女の姿は疎か人っ子一人見当たらなかった。

 「おかしいな、ここで合ってるはずなのに」

 僕は狐に化かされたような心地で古民家を
出る。そうして携帯を取り出し彼女に電話を
掛けた。


――トゥルルル、トゥルルル……。


 祈るような思いで耳を澄ますが、無機質な
呼び出し音が聴こえるばかりで彼女は出ない。
 延々と鳴り続ける呼び出し音に、僕はいよ
いよ眉を顰めた。いったいどうしたというの
だろう?

 僕は一度電話を切り、そのまま『みちくさ』
へ電話を掛け直す。


――トゥルルル、トゥルルル……。


 けれどやはり、先ほどと同じように呼び出
し音が鳴るばかりで、誰も電話に出なかった。

 「どうなってるんだ」

 不吉な予感にどきどきと鼓動が騒ぎ始める。
 彼女が見せてくれた企画書の場所も日付も
間違いないというのに、ブックフェスティバ
ルなどどこにも開催されていないのだ。

 僕は携帯を懐に仕舞うと急くような思いで
竹林を抜け、緑地公園を後にする。そうして
いま来たばかりの道を戻り、『みちくさ』へ
と向かった。



――本日休業。


 商店街を小走りに進み、古書店の前に立つ
と、一枚の紙がペタリとガラス戸に貼られて
いた。僕は店の戸に手を掛け開けてみる。が、
案の定、入り口の戸には鍵が掛けられていて、
ガタガタとガラスが揺れただけだった。

 仕方なく自宅側へ回り込み、インターホン
を押す。僕は迷惑を承知で、ドアの横にある
茶色いボタンを何度も押し続けた。

 すると、二階の小窓が開く音がしたかと思
うと、窓の隙間からお爺さんが顔を覗かせる。

 「うるさいのぅ、うるさくて寝ておれんわ」

 「お爺さん、居たんですね。良かった!!」

 しょぼしょぼとした目を擦りながら、そう
言って僕を見下ろしているお爺さんに、破願
した。僕は一歩下がってお爺さんを見上げる
と事の次第を話した。
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