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第六話 

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「貴様はまだ己の罪を認めないのか?! 騎士と逢引をしておいて、その騎士が証言をしているのだぞ?!」
「私は本当に何もしておりません!」

 ヒトリ王太子の怒り狂った声が、宮廷大ホールに響いた。
 私たちを囲む王侯貴族たちは、王太子の怒りに震え上がり誰も言葉を発さない。

「ほほ、ほ、本当です! 私は! リリネット王太子妃様に抱きつかれ……」
「――黙れっっ!」
 
 私の思っていたことを代わりにヒトリ王太子が叫んだ。
 だがその言葉は私を庇うためではなく、自分の叱責の邪魔をされたくなかったからだろう。

「はははははは、子を奪われた腹いせにアンジュレアを恨み、挙句の果てに騎士と逢引か! 最低最悪な糞女だな!!! これは時代に残る悪女になる……!」

 何を言っているのか。
 歴史に名を残す悪女はアンジュレアであろう。
 他人の夫を寝取り、母親の責任感無しに子を奪い、何ら努力を重ねていないのに王太子妃になる。
 そして子の泣き声一つにも我慢できない女が、いずれ王妃になるのだ。

「そうですよ! わ、私はリリネット王太子妃様に部屋を追い出されましたの!」
「貴女が不適切な行動をとったからよ!」
「だまらっしゃい、もう貴女は――王太子妃ではないの! あははははははは、馬鹿なのかしら?
 そうやって我が物顔になれるのも今のうちよ!」

 けたたましいアンジュレアの笑い声。
 笑みを浮かべ勝ち誇った顔をしたアンジュレアが、悪魔のようにも見えた。
 
『リリネット・ド・アルガン! 貴様は議会で話し合う対象ではない、特別に僕の命令により王太子妃の身分を剥奪する! ――そして、夫がいる身で騎士と逢引した罪で投獄する! ――近衛騎士!』

 ヒトリ王太子が耳が痛くなるような声で大きく、強く張り叫んだ。
 王侯貴族らがどよめき、ざわついた。
 唐突かつ非論理的な王太子の判断に、皆が驚愕する。

 投獄、それは死の宣告のようにも聞こえた。
 
 私の両腕はどこからともなくやってきた近衛騎士に引っ張られる。
 体は乱暴に引きづられ、ドレスが床と擦れた。

 もう抗っても無駄である、私はそう悟った。

「ヒトリ王太子様、御明断ございます」

 アンジュレアは今かとばかりにヒトリ王太子の意見をほめたたえた。
 彼女は人間の本性を表したような醜い顔で笑いをつくり、私のほうを一瞥する。
 
 ふざけるな。
 王太子妃の座を奪ったのはお前。
 私の子を略奪したのもお前。
 愛してくれていた夫を寝取ったのもお前。
 人々の信頼を失わせたのもお前。
 
 すべてを奪い、それでもなお笑顔を見せるお前が――憎い!
 今すぐにでも消えてほしい。
 今すぐにでも死んでほしい。
 今すぐにでも殺されてほしい。

 近衛騎士たちに乱暴に連行され、私の身体は宮廷大ホールが遠ざかっていく。
 だが、どれだけ皮膚が床と擦れようと、私はヒトリとアンジュレアを見続けた。

「アンジュレア、大丈夫だ。もうあの女は投獄される」
「そうですね……けど、私、本当に、怖いっ、ううぅ、うぅぅぅぅ……」
 

 ヒトリが寄り添うようにアンジュレアの両肩を持ち、私を睨み付ける。
 汚いドレスに涙を零しながらウソ泣きをするアンジュレア。

 そして彼女を愛し、私を捨てたヒトリ。
 私からレオンを奪ったアンジュレアの行動に、ヒトリは何も言わなかった。
 それどころか賛同したのだ。 
 アンジュレアがねつ造した【騎士との逢引】という罪を信じ、私を投獄した。
 どうせ私はヒトリに【物わかりの悪いたぶらかし悪女】とでも思われているのだろう。
 それが、ヒトリの瞳からじわじわと感じ取れることだった。
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