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もしここが後宮なら、近いうちに殿下がくるだろうか。
その時に人違いについて聞いてみるのもいいかもしれない。
「殿下が来る予定は?」
「あっ。そうですね。聞いてきます」
アクラムは出て行った。
少しして帰って来たアクラムは、今のところ予定がないと報告した。
「申し訳ありません。私はもともと衛兵で、急きょ後宮兼務になったので、こういったことに慣れておりません。正直申しまして、後宮仕えでどんな仕事をすればいいのかも、今一つ分かっておりません。この後宮は10年間使われておらず、かつて後宮仕えをしていた者たちも散り散りになり、呼び戻したり、新たに雇う予定もないそうなのです。私も衛兵としての教育しか受けておりませんが、辞令が出た時には、お妃さまのご要望を聞けば良いと言われました。ですので、何かありましたら、お申し付けください。後手後手に回ってしまうかもしれませんが、その都度対応させていただきます」
アクラムは言った。
なるほど、なんだか大変そうだ。後宮兼務って…。
だからいつも武装してるんだ。
確かにアクラム以外に人を見ないし、後宮が手入れされている様子もない。
でも庭とお風呂だけは綺麗に保たれているし、部屋は自分で掃除すればいいだろう。
それにたくさんの人に囲まれて、一挙一動を人に見られているよりは、自由放任のほうが気が楽だ。
「そう。私は殿下に至急お尋ねしたいことが有るのだけど、どうしたらいいかしら?」
「お手紙を書かれたらいかがでしょうか。至急お持ちします」
再びアクラムは出て行った。
部屋にはベッドしかなかった。
自分が捕らわれたと思っていた時は、手紙を書くことも許されるわけないと思っていたけれど、どうやら私は人違いで連れてこられただけのようだ。
アクラムに言えば色々な物を持ってきてもらうことが可能だろう。
とりあえず、自分の置かれている立場が分かってよかった。
しばらくして、アクラムがペンと紙を持ってきた。
――――――――――
スワイマン殿下
はじめまして。
私はカーン王子の第1妃、ジェーンと申します。
どうやら手違いがあり、私がアルラシード宮殿の後宮に連れてこられました。
大至急、私をカーン王子の宮に返し、正しいお妃さまを迎えに行ってくださいますよう、お願い申し上げます。
―――――――――――
私はアクラムに手紙を託した。
どうやら、私の手紙はチェックされるようで、アクラムは手紙を読んで、息を飲み、私をみた。
「これは本当ですか?」
「私はカーン王子と結婚してるの。だから絶対におかしいの」
「しかし、身分の高い方の間では、お妃さまを与えることもあります。皇帝陛下のお妃さまを下賜されることは大変名誉なことです。武功を立てた将軍が一番に望むことでもあります。庶民でも、若くして亡くなった友達の妻を娶るということもあります。ですので、もう結婚しているから、別の方の後宮に入らないということはありません。カーン殿下がスワイマン殿下にジェーン様を与えたのではないでしょうか?」
「でもそんな話聞いてないの。カーン王子なら、私に相談してくれるはず。だから人違いで間違いないと思う。手紙を届けてね」
私はこの国の女性の扱いに若干ショックを受けつつも、顔には出さないよう努力して、アクラムに頼んだ。
確かこの国では、「互助」の考え方が強く、困っている者がいたら助けるのが普通だと習った。
なので亡くなった友人の妻を娶るというのは、福利厚生のようなものだと聞いたことがある。
この国に限らず、まだまだ女性が仕事をして、家族を支えるのに十分なお金を稼ぐというのは難しい社会環境だ。
その時に人違いについて聞いてみるのもいいかもしれない。
「殿下が来る予定は?」
「あっ。そうですね。聞いてきます」
アクラムは出て行った。
少しして帰って来たアクラムは、今のところ予定がないと報告した。
「申し訳ありません。私はもともと衛兵で、急きょ後宮兼務になったので、こういったことに慣れておりません。正直申しまして、後宮仕えでどんな仕事をすればいいのかも、今一つ分かっておりません。この後宮は10年間使われておらず、かつて後宮仕えをしていた者たちも散り散りになり、呼び戻したり、新たに雇う予定もないそうなのです。私も衛兵としての教育しか受けておりませんが、辞令が出た時には、お妃さまのご要望を聞けば良いと言われました。ですので、何かありましたら、お申し付けください。後手後手に回ってしまうかもしれませんが、その都度対応させていただきます」
アクラムは言った。
なるほど、なんだか大変そうだ。後宮兼務って…。
だからいつも武装してるんだ。
確かにアクラム以外に人を見ないし、後宮が手入れされている様子もない。
でも庭とお風呂だけは綺麗に保たれているし、部屋は自分で掃除すればいいだろう。
それにたくさんの人に囲まれて、一挙一動を人に見られているよりは、自由放任のほうが気が楽だ。
「そう。私は殿下に至急お尋ねしたいことが有るのだけど、どうしたらいいかしら?」
「お手紙を書かれたらいかがでしょうか。至急お持ちします」
再びアクラムは出て行った。
部屋にはベッドしかなかった。
自分が捕らわれたと思っていた時は、手紙を書くことも許されるわけないと思っていたけれど、どうやら私は人違いで連れてこられただけのようだ。
アクラムに言えば色々な物を持ってきてもらうことが可能だろう。
とりあえず、自分の置かれている立場が分かってよかった。
しばらくして、アクラムがペンと紙を持ってきた。
――――――――――
スワイマン殿下
はじめまして。
私はカーン王子の第1妃、ジェーンと申します。
どうやら手違いがあり、私がアルラシード宮殿の後宮に連れてこられました。
大至急、私をカーン王子の宮に返し、正しいお妃さまを迎えに行ってくださいますよう、お願い申し上げます。
―――――――――――
私はアクラムに手紙を託した。
どうやら、私の手紙はチェックされるようで、アクラムは手紙を読んで、息を飲み、私をみた。
「これは本当ですか?」
「私はカーン王子と結婚してるの。だから絶対におかしいの」
「しかし、身分の高い方の間では、お妃さまを与えることもあります。皇帝陛下のお妃さまを下賜されることは大変名誉なことです。武功を立てた将軍が一番に望むことでもあります。庶民でも、若くして亡くなった友達の妻を娶るということもあります。ですので、もう結婚しているから、別の方の後宮に入らないということはありません。カーン殿下がスワイマン殿下にジェーン様を与えたのではないでしょうか?」
「でもそんな話聞いてないの。カーン王子なら、私に相談してくれるはず。だから人違いで間違いないと思う。手紙を届けてね」
私はこの国の女性の扱いに若干ショックを受けつつも、顔には出さないよう努力して、アクラムに頼んだ。
確かこの国では、「互助」の考え方が強く、困っている者がいたら助けるのが普通だと習った。
なので亡くなった友人の妻を娶るというのは、福利厚生のようなものだと聞いたことがある。
この国に限らず、まだまだ女性が仕事をして、家族を支えるのに十分なお金を稼ぐというのは難しい社会環境だ。
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