後宮に入りましたが、旦那さんが来ないので恋人を探します

国湖奈津

文字の大きさ
上 下
5 / 43

しおりを挟む
疲れているのに寝ることもできず、部屋の中を動き回ったり外の風景をぼんやり眺めたり、もう一度侯爵夫人の授業を振り返ろうと持ってきたノートを見返してみたり…。

落ち着かない時間を過ごしている間に、日が暮れて夜。
カーン王子が私の部屋に来た。

カーン王子に続いてたくさんの人々が料理を持って入ってくる。
床の上にクッションが置かれ、王子がそこにゆったりと座ると、料理が並べられた。
私も促されるまま王子の隣に座り、食事が始まった。


どれもこれも初めて食べるものばかりだったけれど、美味しかった。
リナレイではあまり食卓に出てこない、木の実や豆を使った料理もあった。

主食はお米で、この国独特のスパイスが使われているのだと教わった。

以前リナレイの王宮で一度お会いした時はお寂しそうでなんだか陰のある雰囲気だったカーン王子は、自分の国だからか威厳に満ち溢れ、やや硬いながらも明るい顔をなさっていた。
旅の道中のことや、この国の印象などを尋ねられながら楽しく、けれどやはり緊張しながら食事をした。


食事が終わって料理が片付けられて少し経った頃、「では始めるか」と言って王子は立ち上がった。
ついに始まるのだ。

とりあえず裸になった方がいいのだろうか。
私はそう頭で思うものの、行動に移せぬまま王子に視線を投げかけた。

王子は、こちらに来いと私の手を引いた。

入り口から対角線上にある、部屋の一番奥の方に歩いていく。
そこには、美しい宝石で作った風景画のタペストリーが飾られていた。

王子は周囲を確認すると、その風景画を壁から外した。
出てきたのは、周囲と一続きの漆喰の壁。

壁の一角を押すと、そこがへこんだ。

次に王子は部屋の絨毯をめくり上げた。
床のタイルには小さな穴が開いていた。

王子はその穴にどこから取り出したのか、ちょっと大きめの突起の付いたリングをねじ込んだ。
そしてリングを引っ張ると、床が持ち上がった。

床の下にはぽっかりと穴が開いていた。
覗き込んだ穴は深く梯子がかけられているのが確認できたけれど、どれくらい深いのかはわからない。

それは王族しか知らない抜け穴だった。

「もし、万が一、この宮が賊に襲われることが有ったら、とにかくあなたはこの通路から逃げることに専念するんだ。わかったね。今私がここを開けるところを見ていただろうから、忘れないうちに何度かやってみてほしい」

王子が見ている横で、私は言われるまま3度抜け穴を開錠した。
思った通り力が必要だけれど、私1人の力でもどうにか開けることができた。

私の動きを確認した王子は、リングを金のチェーンに通して私の首にかけた。
「これはとても大切なものだ。肌身離さず持っているように」

リングを託されて、私はもうこの国の人間になったのだ、この国の王族の一員になってしまったのだ。
という引き返せない思いが込み上げてきた。

嬉しいのか悲しいのかわからないけれど、今までとは違う何か責任ある立場に自分がなった、そんな気がした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

処理中です...