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謝罪
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「あなたは悪くないわ。私もやり返してくれてすっきりした気分よ。あなたの本当の姿はそれ?いつもはどんな陰口を言われても俯いているし、目立つような真似はしないでしょう?気の弱い方なんだろうと思っていたのに」
バーバラの言葉を聞いて、ホッとした。
どうやら怒っていないようだ。
「大勢の前で波風を立てて、これ以上噂の的になりたくないだけよ。全部聞こえないふりで過ごしてるわ。そういえば、あなたからも、つい最近言葉をいただいたわね。でも、さきほどのストナン伯爵夫人の言葉はあなたにも向けられていたように感じたけど?」
バーバラに視線を送ると、バーバラはハッとしたようにこちらを見て、頭を下げた。
「先日はごめんなさい。あなたにあんなことを言ったけど、実は私も同じなの。父が身分の低い女性との間に作った婚外子が私なの。それで私は義母と妹に嫌われていて…、それで…」
「そうだったの」
私はバーバラがリリー先生の娘だと知っていたけれど、義母と義妹に嫌われ暮らしていることは知らなかった。
両親から愛されて育ち、母の実家クープマン公爵家に引き取られてからも、みんな(ケネス以外)に可愛がられてきた私には、どう慰めれば良いのかわからない。
ただ黙ってバーバラを見つめる。
「でもね、家族全員から嫌われてるわけじゃないの。父は私を可愛がってくれている。だけど父は忙しい人だし、それにきっと私のことで義母に対する後ろめたい気持ちがあるから、義母と義妹にあまり強く出られなくて…。そんな父がジョリバック家との婚姻話では私を優先してくれて、私をハンス様の婚約者にしてくれた。もちろん義母と義妹は反対していたけれど、今回は父が自分の意志を貫いた。私は嬉しくて…。今考えると、ハンス様は私がお気に召さなかったんだと思う。私といる時はいつも不機嫌だったし、あなたと踊ったりするしね。あの日の私は、初めて父が義母の意見を振り切って私に与えてくれた機会を逃したくなくて必死だった。気がついたらいつも義母に言われている言葉をあなたにぶつけていたわ。ハンス様も言っていたけれど、あの日の私はきっとひどい顔をしていたんでしょうね。特に“自害なさい”と言ったのは本当に後悔しているの。私も言われて一番傷ついた言葉だったのに、あなたに言ってしまうなんて、どうかしていたわ。謝って済む話ではないけれど、本当にごめんなさい」
バーバラは再び頭を下げた。
今日ストナン伯爵家を訪ね、バーバラと話を聞いたことで少しバーバラを理解できた気がした。
バーバラは義理の母に“自害しろ”と言われたことがあるのだろう。
もしも実際にバーバラが自害したら、ストナン伯爵家の評判は地に落ちるだろうに、そんなこともあの女性は分からないのだろうか?
そもそも人として言ってはいけない言葉だ。
「今日あなたを訪ねたことで、いろいろ理解できたわ。あの言葉は謝罪を受け入れて忘れることにします」
「それは本当?よかったわ。ありがとう。それからもう1つお願いなのだけど、公爵夫妻に義母たちの言ったことを話すのは、できればやめてほしいの。本当に都合のいいことを言っていると思うのだけれど、義母と私のトラブルのせいで父がおとがめを受けることになるのは避けたくて。今日のことで、義母も義妹もあなたが大人しく言葉に耐える、私のような人間ではないと分かったはずよ。次はないと思うの。だから、その紙を破棄してくれない?」
バーバラは私の前にある手帳を見ている。
いつも持ち歩いている手帳には、ミミズの のたくったような文字が記されていた。
「あぁ、これ?こんなのハッタリよ。私に速記の技術はないの。でもどうせ あちらにも速記の技術なんてないから見破られないだろうと思って、とっさにね。もう何を言われたか覚えていないから、おじい様たちに報告することもないわ。安心して」
私がウィンクすると、バーバラはホッとした表情を見せた。
「ところであなたは実のお母さまのことをご存じなの?」
バーバラはリリー先生のことを知っているのだろうか?
「名前がリリーで叔母様の家庭教師をしていたということだけ。このことは義母も義妹も知らないはずよ。内密にお願い」
「分かったわ」
私はバーバラの手に自分の手を重ねた。
バーバラの言葉を聞いて、ホッとした。
どうやら怒っていないようだ。
「大勢の前で波風を立てて、これ以上噂の的になりたくないだけよ。全部聞こえないふりで過ごしてるわ。そういえば、あなたからも、つい最近言葉をいただいたわね。でも、さきほどのストナン伯爵夫人の言葉はあなたにも向けられていたように感じたけど?」
バーバラに視線を送ると、バーバラはハッとしたようにこちらを見て、頭を下げた。
「先日はごめんなさい。あなたにあんなことを言ったけど、実は私も同じなの。父が身分の低い女性との間に作った婚外子が私なの。それで私は義母と妹に嫌われていて…、それで…」
「そうだったの」
私はバーバラがリリー先生の娘だと知っていたけれど、義母と義妹に嫌われ暮らしていることは知らなかった。
両親から愛されて育ち、母の実家クープマン公爵家に引き取られてからも、みんな(ケネス以外)に可愛がられてきた私には、どう慰めれば良いのかわからない。
ただ黙ってバーバラを見つめる。
「でもね、家族全員から嫌われてるわけじゃないの。父は私を可愛がってくれている。だけど父は忙しい人だし、それにきっと私のことで義母に対する後ろめたい気持ちがあるから、義母と義妹にあまり強く出られなくて…。そんな父がジョリバック家との婚姻話では私を優先してくれて、私をハンス様の婚約者にしてくれた。もちろん義母と義妹は反対していたけれど、今回は父が自分の意志を貫いた。私は嬉しくて…。今考えると、ハンス様は私がお気に召さなかったんだと思う。私といる時はいつも不機嫌だったし、あなたと踊ったりするしね。あの日の私は、初めて父が義母の意見を振り切って私に与えてくれた機会を逃したくなくて必死だった。気がついたらいつも義母に言われている言葉をあなたにぶつけていたわ。ハンス様も言っていたけれど、あの日の私はきっとひどい顔をしていたんでしょうね。特に“自害なさい”と言ったのは本当に後悔しているの。私も言われて一番傷ついた言葉だったのに、あなたに言ってしまうなんて、どうかしていたわ。謝って済む話ではないけれど、本当にごめんなさい」
バーバラは再び頭を下げた。
今日ストナン伯爵家を訪ね、バーバラと話を聞いたことで少しバーバラを理解できた気がした。
バーバラは義理の母に“自害しろ”と言われたことがあるのだろう。
もしも実際にバーバラが自害したら、ストナン伯爵家の評判は地に落ちるだろうに、そんなこともあの女性は分からないのだろうか?
そもそも人として言ってはいけない言葉だ。
「今日あなたを訪ねたことで、いろいろ理解できたわ。あの言葉は謝罪を受け入れて忘れることにします」
「それは本当?よかったわ。ありがとう。それからもう1つお願いなのだけど、公爵夫妻に義母たちの言ったことを話すのは、できればやめてほしいの。本当に都合のいいことを言っていると思うのだけれど、義母と私のトラブルのせいで父がおとがめを受けることになるのは避けたくて。今日のことで、義母も義妹もあなたが大人しく言葉に耐える、私のような人間ではないと分かったはずよ。次はないと思うの。だから、その紙を破棄してくれない?」
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私はバーバラの手に自分の手を重ねた。
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