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 「じゃあ、交代か。俺目をつぶってるから、千織ちゃんここ座って」

 そう言うと亮君は、脇に避けて立った。
 私は指示されるまま、お風呂の椅子に座った。

 亮君も私と同じようにシャワーでしっかり汚れを落としてからシャンプーを始めた。
 亮君の手つきは、なんというか、桃を洗っているみたいに、ものすごく優しかった。

 「もうちょっと、力強くしても大丈夫だよ」

 「このくらい?」

 「もっと」

 「このくらいは?」

 「もっと」

 「もっと?」

 「亮君が自分で洗う時くらい強くして平気」

 亮君の力加減は、ちょうど私好みになった。

 「そのくらいの力加減で、頭をちょっともんでくれる?あぁ、すごく良い感じ。すごく気持ちいい」

 頭をマッサージしてもらうのって本当に気持ちいい。
 疲れがほぐれていく。

 亮君の手は大きいので、私の頭を包み込んでくれてマッサージも上手だった。

 「ね、ねぇ千織ちゃん。俺が頑張って我慢してるのに、千織ちゃんが『もっと』とか『気持ちいい』とかエロいこと言うの禁止でしょ」

 「ご、ごめん」

 私はなぜか謝っていた。

 亮君は念入りにトリートメントもしてくれて、丁寧に髪を流してくれた。
 私はタオルを髪に巻いて、落ちてこないようにターバンにした。

 「じゃあ、背中洗うね。千織ちゃんボディタオル使ってるみたいだけど、俺は素手で洗った方がいいって前テレビで見て、自分もそれ以来素手で洗ってるから、素手で洗うね」

 そう言うと亮君は、ボディタオルで泡を作って、その泡を手ですくって私の背中を洗い始めた。
 とてもやさしい手つきだった。

 私も亮君と同じようにすれば、亮君の背中を触れたのだ。
 私はちょっとだけ後悔した。

 背中と髪以外は各自で洗った。
 照明にも気を付けたし、亮君もなるべく私の体を見ないように気を付けているみたいで、割と健全なお風呂タイムを過ごせている。
 私たちは、再び浴槽で向かい合った。

 私が勝手に思ってるだけかもしれないけど、亮君は同年代の中ではかなり大人っぽくて色気がある方だと思う。
 特に目がすごく、すごく色っぽい。

 そんな亮君の髪が濡れている。
 そのことによって、お色気がさらに増し増しになってしまっていた。

 私は、濡れた亮君に見つめられて、凄くドキドキしてしまった。
 亮君が決心して頑張っているのに、私が亮君に欲情してるなんで、絶対だめだと思う。
 絶対また怒られてしまう。

 亮君にドキドキしてしまっていることを隠すために、私は先にお風呂から出てパジャマに着替えた。

 私のパジャマは誰にも見られる心配がないからと、完全に趣味に走っている。
 薄ピンク地に小さい犬の絵がたくさん描いてあるという、ちょっと子供っぽいデザインだ。
 少し恥ずかしい。

 でも亮君の持参したパジャマも紺地にワンポイントの犬の刺繍が胸にしてあるというものだったので、二人で偶然の一致に盛り上がった。
 
 結婚したらお揃いのパジャマを買いに行く約束もして、少しずつ結婚が具体的な形になっていくようで胸が高鳴った。

 亮君は髪を自分でササっと乾かすと、私の髪を丁寧に乾かしてくれた。
 亮君が髪を乾かしてしまったのを、私はちょっとだけ残念に思った。
 髪の濡れた亮君は、私のツボだったみたいだ。


 時刻はまだ10時台だったけれど、私たちは寝てしまうことにした。

 亮君は先にベッドに入って横になると、羽布団をまくって、ここにおいでと言うようにシーツをポンポン叩いている。
 何度か亮君と一緒に寝ているけれど、こういう風に一緒に寝るのは初めてで、妙に照れてしまった。

 私たちは向かい合って、亮君は私のお腹に手を回した。

 私は普段寝つきがあまりいい方ではない。
 時間もいつも寝る時間よりも早い。
 それに亮君の腕が私の体の下にあるので、亮君の腕、しびれちゃうんじゃないかなと気になった。

 だからなかなか眠れそうにないな、と感じたんだけど……。

 亮君の呼吸を感じながら、亮君の体温に包まれていたら、嘘みたいにすぐに眠ってしまった。
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