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今日は12月24日。
クリスマスイブだ。
学校は明日からお休みで、今日は終業式だった。
私も今日は残業せずに帰るつもりだけど、もちろん毎年恒例のシングルベル。
いつもは手を出せない高級なお肉とケーキを買って、家で食べるだけのイブになる予定だ。
お昼ご飯を食べながら、ラインをチェックしていると、母から『ちゃんと部屋の掃除してるの?』というメッセージが入っていた。
バカにしないでほしい。
私の部屋は綺麗だ。
奮発して買ったお掃除ロボットが毎日お掃除をしてくれているのだから。
『綺麗にしてるよ』
私は返信しておいた。
何だろう。
今まで一度もされたことないけれど、私の部屋の抜き打ちチェックでもするつもりだろうか。
私と同様、母もずぼらな性格なので窓サッシの埃チェックとかは、しない性格だと信じている。
そういう部分の綺麗さには自信がない。
予定通りお肉とケーキを買って家に帰り、夕ご飯の支度をしていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。
誰だろうと出ると、亮君だった。
「じいちゃんばあちゃんが千織ちゃんにクリスマスプレゼント送ってきたから、届けに来た」
私は驚き戸惑いつつも、エントランスを開けて、亮君に上まで来てもらうことにした。
ドアを開けると亮君は、クリスマスプレゼントだという大きな花束と、フィンランドから送られてきたというハムとジンジャークッキーを渡してくれた。
ハムは5キロ以上ありそうな、大きな塊だった。
これを持ってくるの、すごく大変だったと思う。
「今日家に帰ってから、千織ちゃんちにプレゼント持って行けって父さんに言われて。急なことでちゃんとしたプレゼント用意できなくて、花になっちゃった。ごめんね」
「お花すごくうれしいよ。お花があるとやっぱりお部屋が華やかになるよね、ありがとう」
私は早速お花を花瓶に移そうと、園芸鋏で下処理をはじめた。
すると、キラリと光るものを見つけた。
イエローゴールドの立体的なお花モチーフがついたネックレスだった。
「うわ、亮君このネックレスも私に?サプライズ?」
「うん、千織ちゃん誕生日プレゼントのネックレス、普段はつけられないって言ってたから、普段使いしやすそうなのにしてみたけど、どう?」
「めちゃくちゃ可愛い。いいなぁと思ってたの、これ。普段使いするね。ありがとう。私は特にクリスマスプレゼント用意できてなくて……ごめんね」
今日亮君と会えると思っていなかった私は、クリスマスプレゼントを用意していなかった。
もらってばかりで、気が利かない私。
自宅に配送してもらうという手もあったはずなのに。
「千織ちゃんは、いてくれるだけでプレゼントだからいいよ」
亮君の甘い冗談に、私は照れながら笑った。
「千織ちゃんの部屋、広いね。この階全部千織ちゃんの?」
「うん、祖父が何年か前に自転車で転んで骨折したの。その時に、もう自分はだめだって弱気になって、相続税対策しようって急いでここ買ったみたい。ところが、すぐ元気になっちゃったから、相続が発生することもなくて。この部屋をあそばせておくのもったいないってことで、私が住んでるの。結婚しても、ここなら広いし。亮君と結婚した後も、ここに住めばいいかなって思ってるんだけど。どう?」
「うん。いいね。景色もすごいし」
「でしょ。私もここの景色は気に入ってるんだ。こっち側からは海が見えて、向こう側からは街の景色が見えるようになってる。夏の花火大会も、かなりよく見えるよ。最高の特等席だと思う」
私は花束を花瓶に移し終えると、亮君に部屋を案内した。
亮君のいる毎日を想像して、心がはしゃいでしまう。
軽井沢旅行以来、ついつい亮君のいる生活を想像してしまって、買い物に行くときも亮君に似合いそうとか、亮君が使うんだったら、こんなのがいいんじゃないかと想像して物を見てしまうようになった。
今、実際に亮君がこの部屋にいて思うのは、私が今までしていたどんな妄想よりも、当たり前だけど、リアルだということ。それなのに合成写真を見ているように現実感がない。
ただ1つ確かなことは、どんな妄想よりも私の心は浮き立っているということだった。
「それで、この部屋を亮君の部屋にしようと思ってるの。ちょっとまだ完全には片付いてないんだけど。クローゼット開けてみて」
「あ、これって俺のクローゼット?いろいろ揃えてくれてるんだ」
クローゼットには靴下やハンカチ、ベルトなどを入れてあった。
最近買い物に行くと、ついつい男性物のコーナーも見てしまって、亮君のものをちょこちょこ買ってしまう癖がついている。
「消耗品ならあっても邪魔にならないかなって思って。あと、これプレゼント」
ふと思いついた私は、クローゼットの中に入れておいたラッピングされた小さな箱を渡した。
亮君に、開けてみるよう促す。
「これって、もしかしてこの家の鍵?すごい。今まで生きてきた中で一番うれしい。ありがとう」
箱の中身はキーホルダーだった。キーホルダーには、この家の鍵がついている。
「今日は、父さんから許しが出て、千織ちゃんちに泊まっていいって言われてるから、泊まりたい。いい?」
「う、うん」
急な亮君のお泊り発言に、私の心臓が早鐘を打つ。
寂しいクリスマスを過ごす私に、サンタさんが亮君をプレゼントとして派遣してくれたのかもしれない。
私は急いでお料理を作った。
何日か食べようと多めに作っているので、亮君の分もある。
亮君は持ってきたハムを切り分けたり、カトラリーの用意をしたりと働いてくれている。
2人で用意して、クリスマスディナーが開始になった。
亮君はフィンランドのクリスマスについて教えてくれた。
フィンランドと言えばサウナ。
クリスマスもサウナに入るところから始まるらしい。
今日持ってきてくれたハムもクリスマスに欠かせない物らしく、エヴァさんのご実家の地域ではハムにマスタードを付けて食べるのだとか。
知らないことだらけのフィンランドについての話は面白かった。
私もいつか行ってみたいな。
クリスマスイブだ。
学校は明日からお休みで、今日は終業式だった。
私も今日は残業せずに帰るつもりだけど、もちろん毎年恒例のシングルベル。
いつもは手を出せない高級なお肉とケーキを買って、家で食べるだけのイブになる予定だ。
お昼ご飯を食べながら、ラインをチェックしていると、母から『ちゃんと部屋の掃除してるの?』というメッセージが入っていた。
バカにしないでほしい。
私の部屋は綺麗だ。
奮発して買ったお掃除ロボットが毎日お掃除をしてくれているのだから。
『綺麗にしてるよ』
私は返信しておいた。
何だろう。
今まで一度もされたことないけれど、私の部屋の抜き打ちチェックでもするつもりだろうか。
私と同様、母もずぼらな性格なので窓サッシの埃チェックとかは、しない性格だと信じている。
そういう部分の綺麗さには自信がない。
予定通りお肉とケーキを買って家に帰り、夕ご飯の支度をしていると、来客を知らせるチャイムが鳴った。
誰だろうと出ると、亮君だった。
「じいちゃんばあちゃんが千織ちゃんにクリスマスプレゼント送ってきたから、届けに来た」
私は驚き戸惑いつつも、エントランスを開けて、亮君に上まで来てもらうことにした。
ドアを開けると亮君は、クリスマスプレゼントだという大きな花束と、フィンランドから送られてきたというハムとジンジャークッキーを渡してくれた。
ハムは5キロ以上ありそうな、大きな塊だった。
これを持ってくるの、すごく大変だったと思う。
「今日家に帰ってから、千織ちゃんちにプレゼント持って行けって父さんに言われて。急なことでちゃんとしたプレゼント用意できなくて、花になっちゃった。ごめんね」
「お花すごくうれしいよ。お花があるとやっぱりお部屋が華やかになるよね、ありがとう」
私は早速お花を花瓶に移そうと、園芸鋏で下処理をはじめた。
すると、キラリと光るものを見つけた。
イエローゴールドの立体的なお花モチーフがついたネックレスだった。
「うわ、亮君このネックレスも私に?サプライズ?」
「うん、千織ちゃん誕生日プレゼントのネックレス、普段はつけられないって言ってたから、普段使いしやすそうなのにしてみたけど、どう?」
「めちゃくちゃ可愛い。いいなぁと思ってたの、これ。普段使いするね。ありがとう。私は特にクリスマスプレゼント用意できてなくて……ごめんね」
今日亮君と会えると思っていなかった私は、クリスマスプレゼントを用意していなかった。
もらってばかりで、気が利かない私。
自宅に配送してもらうという手もあったはずなのに。
「千織ちゃんは、いてくれるだけでプレゼントだからいいよ」
亮君の甘い冗談に、私は照れながら笑った。
「千織ちゃんの部屋、広いね。この階全部千織ちゃんの?」
「うん、祖父が何年か前に自転車で転んで骨折したの。その時に、もう自分はだめだって弱気になって、相続税対策しようって急いでここ買ったみたい。ところが、すぐ元気になっちゃったから、相続が発生することもなくて。この部屋をあそばせておくのもったいないってことで、私が住んでるの。結婚しても、ここなら広いし。亮君と結婚した後も、ここに住めばいいかなって思ってるんだけど。どう?」
「うん。いいね。景色もすごいし」
「でしょ。私もここの景色は気に入ってるんだ。こっち側からは海が見えて、向こう側からは街の景色が見えるようになってる。夏の花火大会も、かなりよく見えるよ。最高の特等席だと思う」
私は花束を花瓶に移し終えると、亮君に部屋を案内した。
亮君のいる毎日を想像して、心がはしゃいでしまう。
軽井沢旅行以来、ついつい亮君のいる生活を想像してしまって、買い物に行くときも亮君に似合いそうとか、亮君が使うんだったら、こんなのがいいんじゃないかと想像して物を見てしまうようになった。
今、実際に亮君がこの部屋にいて思うのは、私が今までしていたどんな妄想よりも、当たり前だけど、リアルだということ。それなのに合成写真を見ているように現実感がない。
ただ1つ確かなことは、どんな妄想よりも私の心は浮き立っているということだった。
「それで、この部屋を亮君の部屋にしようと思ってるの。ちょっとまだ完全には片付いてないんだけど。クローゼット開けてみて」
「あ、これって俺のクローゼット?いろいろ揃えてくれてるんだ」
クローゼットには靴下やハンカチ、ベルトなどを入れてあった。
最近買い物に行くと、ついつい男性物のコーナーも見てしまって、亮君のものをちょこちょこ買ってしまう癖がついている。
「消耗品ならあっても邪魔にならないかなって思って。あと、これプレゼント」
ふと思いついた私は、クローゼットの中に入れておいたラッピングされた小さな箱を渡した。
亮君に、開けてみるよう促す。
「これって、もしかしてこの家の鍵?すごい。今まで生きてきた中で一番うれしい。ありがとう」
箱の中身はキーホルダーだった。キーホルダーには、この家の鍵がついている。
「今日は、父さんから許しが出て、千織ちゃんちに泊まっていいって言われてるから、泊まりたい。いい?」
「う、うん」
急な亮君のお泊り発言に、私の心臓が早鐘を打つ。
寂しいクリスマスを過ごす私に、サンタさんが亮君をプレゼントとして派遣してくれたのかもしれない。
私は急いでお料理を作った。
何日か食べようと多めに作っているので、亮君の分もある。
亮君は持ってきたハムを切り分けたり、カトラリーの用意をしたりと働いてくれている。
2人で用意して、クリスマスディナーが開始になった。
亮君はフィンランドのクリスマスについて教えてくれた。
フィンランドと言えばサウナ。
クリスマスもサウナに入るところから始まるらしい。
今日持ってきてくれたハムもクリスマスに欠かせない物らしく、エヴァさんのご実家の地域ではハムにマスタードを付けて食べるのだとか。
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