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 今週は、星野先生が新婚旅行から帰ってきて仕事に復帰したため、私は3組の副担任の業務を星野先生に引き継ぎ、また普段通りの生活に戻った。

 先週は二者面談で顔を出せなかったけれど、私は茶道部の顧問をしている。
 と言っても、この茶道部は茶道を極め先人たちに思いを馳せるとか侘び寂とか、そういう高尚な部活ではない。

 1週間に1度部活のみんな総勢5人で持ち寄った手作りお菓子を食べながら抹茶をいただくという大変お気楽な部活だ。

 一応、作法に則ってお茶を点てることは毎回している。
 一通りできたら、後は抹茶を飲みお菓子を食べながらのお話タイムになる。

 私も輪に入って聞き役になるけれど、部員はみんな女の子だから恋の話も多い。

 今日はなんと亮君の話題になってしまった。
 そうなのだ。亮君がすっかり変わり果ててしまったのだ。

 気づいたのは水曜日だった。
 今週はなんだか女の子達がざわついてるなぁと思いつつも、戻ってきた平穏な日常を過ごしていると、生徒に「こんにちは」と挨拶されたので、「こんにちは」と返すと亮君だった。

 その亮君は眼鏡をしていなかった。
 ワックスを付けているのか前髪も目にかかっておらず整えられている。
 
 そしてYシャツの上のボタン2つを開けていた。
 私は亮君のその姿に心臓をわしづかみにされてしまい、動悸・息切れが止まらなくなってしまった。

 うちの学校の特に高等部は、どちらかと言うと『勉強さえしてくれれば、極端に乱れていない限り服装や髪形については細かいことは言いません』という校風なので髪を染めている生徒もいるし、制服を着崩している生徒もいる。

 今は夏服なので、男子は学校指定の紺ズボンを履いていれば上はTシャツでもYシャツでも文句を言わない。
 女子は学校指定の紺のチェックスカートを履いていれば、上はほぼ何でもOKだ。

 でも亮君はいつもYシャツを着て、一番上のボタンまできちんと閉めていた。
 少なくとも先週1週間は。

 目立たないように顔を隠していたので、長い前髪を下ろしていて眼鏡をしていた。

 そんな真面目路線にいた亮君が、急にセクシー路線に路線変更したようなのだ。

 私は知らなかったけれど、亮君は中等部に入った時からずっと眼鏡をしていたらしく、亮君の本当の顔を知らなかった生徒もたくさんいたようで、一気に亮君フィーバーが起きてしまったらしい。

 もともと背が高くて頭のいい品行方正な弓道部の部長として、一定の女子からの人気を集めていたようなのだが、全校の女子の注目を集めてしまっていた。

 雑誌で見かけてもおかしくない見た目なのだからしょうがないと思いつつも、私は複雑な心境だった。

 たぶん結婚前に運命の相手を見つけようとか、そういうことなのかなぁとどうしても思ってしまうのだ。
 私はどういう因果か一応婚約者なのだし年上なのだから、正妻の余裕というのが必要だとは思う。

 でも可愛い女の子たちが亮君に注目しているのを知って、心穏やかではいられなかった。
 茶道部の女の子たちが言うには、

 「目が綺麗で、超セクシー」わかる。
 「外国人のモデルさんみたい」わかる。
 「結婚したい」ぐっ、わかる。
 「筋肉をなめ回したい」うんうんわかる。
 「抱かれたい」わか……高校生が破廉恥な。ダメですよ、そういうことを言っては。

 「先生もそう思いますよねー」

 生徒たちに同意を求められてしまった。

 「やー。さすがに高校生だし、私には若すぎてそういうこと思わないかなぁ。みんな若いねぇ」

 私はまさか同意することもできず、そう言っておいた。
 すみません。本当は元淫行教師です。

 「みんなそんなにカッコいいと思うなら、告白してみたらいいんじゃない?」

 私は大人げなく探りを入れてみた。
 自分でも性格悪いと思うけど、どうしても気になってしまう。

 「そういうのじゃないんですよ。好きな人は別にいるので。アイドルに騒いでいる感じと似てますね」

 ねー。とみんなでうなずき合ってる。

 「特に宇津木うつぎ先輩と梅渓先輩が一緒に居るとアイドルユニットみたいで、本当に眼福なんです」

 1年生部員2人が、はしゃいでいる。

 宇津木先輩というのは3年生のサッカー部の部長で、亮君と仲がいい学校1のモテ男らしい。
 彼女がしょっちゅう変わる軟派な宇津木君と、硬派な亮君のコントラストがいいらしかった。

 なるほど、そういう感じか。
 この様子だと今一時的に騒いでるけど、すぐにブームは過ぎ去りそうだ。

 私は一安心した。

 亮君がアイドルみたいに思われてるっていうなら少しうれしい気持ちもあるな。
 身内を誉められると嬉しいもんね。

 
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