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今夜のメニューは部活で疲れた亮君のことを考え、メインをお肉に決めた。
確かイタリアンも好きだったはずなので、イタリアンでいいだろう。
エリに付き合って中学時代からお料理教室に通っていた私は、教わった料理ならうまく作れる。
冷蔵庫の中の食材で適当においしいものを作るのは苦手だし、自分でおいしい料理を生み出すこともできないので料理上手ではない。
お料理教室の生徒としては優秀だと自負している。
困るのは、レシピ通りにしか作れないことだ。
必要な食材が全部そろっていなければならない。
料理上手の人みたいに別のもので代用したりアレンジしたりが出来ない。
買い忘れがあると、また買い物に行かないとつくれない。
だから買い物メモはきちんと持って、買い忘れがないように買い物をした。
今日のメニューは鴨の煮込みソースのパッパルデッレ、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ、水牛のモッツァレラチーズのサラダ、お気に入りのお店で買ってきたレモンパイ。
それに母が作り置きしているおかずも出してしまうことにした。
食べていいよ、と言っていたので食べてないと不自然だ。
冷蔵庫からパプリカのソテーや手羽先を使った料理を出して盛り付けた。
パッパルデッレは手打ちだ。
育ち盛りの男の子の食べる量が分からなかったので、ライ麦パンも焼いておいた。
6時半ころ玄関チャイムが鳴った。
レアとテティも嬉しそうに一緒に出迎えた。
亮君は白いTシャツにジーンズという私服姿だった。
シャワーを浴びてきたらしく、石鹸の香りがする。
「部活お疲れ様。どうぞ、中入って。晩御飯食べてないよね。今パスタゆでてお肉焼くね。飲み物は何がいい?」
「何か手伝おうか。飲み物は酒以外なら何でもいいよ」
「お手伝いは大丈夫かな。茹でて焼くだけだからね。適当にお料理並べてあるから、先に食べてて」
「できるまでワンコたちと遊んでるから一緒に食べよう。あとこれ、忘れてった靴」
にっこりと笑いかけて紙袋を手渡される。
今日は機嫌がいいらしく、学校にいるときよりにこにこしている。
お酒はよくない。
私も同じ気持ちだったので、靴の袋を受け取り、冷蔵庫からペリエとウーロン茶を出した。
ワンコたちに癒され、料理も好きなのでついついルンルン気分でいたけれど、これからとても話しにくい話をしなければならない。
「亮君って目が悪いの?」
私は話さなければならないテーマから逃げるように、そんな話題を亮君に振っていた。
「なんで?」
「昔は眼鏡かけてなかったでしょ?前髪長いと、余計目が悪くなっちゃうって何かの記事で読んだよ。ファッションのためとかだったら、別にいいんだけど。あ、これ生徒指導じゃないからね」
うちの学校は、服装や髪形の指導は、ほとんどしていない。
「視力は悪くないんだけど……」
「視力悪くないのに眼鏡かけてるんだ。今、伊達メガネ流行ってるの?」
高校生の間で何が流行ってるのか、チェックしていない私。
職務怠慢かもしれない。
「んー。視力は悪くないんだけど、目の色がちょっと変だから。それにあまり目立ちたくないし。それで……」
亮君は少し恥ずかしそうに、そういった。
!?
亮君が何を言っているのか、理解するのに時間がかかった。
「え?亮君誰かにいじめられてる?」
「ぶはっ。いじめられてるわけじゃないけど。やっぱり千織ちゃんみたいに黒い瞳って綺麗で憧れる。まぁ、できるだけ目立ちたくないって理由の方が大きいかな」
私は亮君をいじめているやつがいるなら、懲らしめてやろうと思っていたけれど、亮君はテティをわしゃわしゃ撫でながら、笑ってそう言った。
確かに亮君は背が高いので、いるだけで目立つ。
そこにいるだけで注目浴びちゃうって、普通に生活する上で面倒なのかもしれない。
「私は亮君の目はすごいきれいだってずっと思ってるけどね。本人はそうでもないのか。色々な価値観があるんだね。日本だと瞳の色が黒とかこげ茶とかの人が多いけど、亮君の瞳きれいだって思う人きっとたくさんいると思うよ」
私は何となくもったいないような気がした。
こんなに綺麗なものを隠しちゃうなんて。
でも本人の意思に委ねるべきことだよな、とも思い、複雑な気持ちになった。
「千織ちゃんはどっちがいいと思う?」
そう言って亮君は眼鏡をはずした。
「うん。私は眼鏡なくてもいいと思う。それから、前髪ももっと短くしてもいいんじゃないかなって。目立ちたくないなら、逆効果になっちゃうだろうけどね」
私がそう言うと、亮君は前髪を手櫛でかき上げて後ろに流した。
亮君と目が合った私は、なぜかドキッとしてしまった。
素顔の亮君は、すっかり綺麗な男の人になっていた。
堀深めの顔立ちに、バランスよく整えられた各パーツが配置されている。
印象的な切れ長の目は、今はワンコに向けられ、やさしく細められている。
子供の頃あんなに美少女だったのが嘘のように、今の亮君は男の人にしか見えない。
白Tとジーパンでワンコと戯れているだけなのに、雑誌の表紙を飾れそうな雰囲気があった。
確かイタリアンも好きだったはずなので、イタリアンでいいだろう。
エリに付き合って中学時代からお料理教室に通っていた私は、教わった料理ならうまく作れる。
冷蔵庫の中の食材で適当においしいものを作るのは苦手だし、自分でおいしい料理を生み出すこともできないので料理上手ではない。
お料理教室の生徒としては優秀だと自負している。
困るのは、レシピ通りにしか作れないことだ。
必要な食材が全部そろっていなければならない。
料理上手の人みたいに別のもので代用したりアレンジしたりが出来ない。
買い忘れがあると、また買い物に行かないとつくれない。
だから買い物メモはきちんと持って、買い忘れがないように買い物をした。
今日のメニューは鴨の煮込みソースのパッパルデッレ、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ、水牛のモッツァレラチーズのサラダ、お気に入りのお店で買ってきたレモンパイ。
それに母が作り置きしているおかずも出してしまうことにした。
食べていいよ、と言っていたので食べてないと不自然だ。
冷蔵庫からパプリカのソテーや手羽先を使った料理を出して盛り付けた。
パッパルデッレは手打ちだ。
育ち盛りの男の子の食べる量が分からなかったので、ライ麦パンも焼いておいた。
6時半ころ玄関チャイムが鳴った。
レアとテティも嬉しそうに一緒に出迎えた。
亮君は白いTシャツにジーンズという私服姿だった。
シャワーを浴びてきたらしく、石鹸の香りがする。
「部活お疲れ様。どうぞ、中入って。晩御飯食べてないよね。今パスタゆでてお肉焼くね。飲み物は何がいい?」
「何か手伝おうか。飲み物は酒以外なら何でもいいよ」
「お手伝いは大丈夫かな。茹でて焼くだけだからね。適当にお料理並べてあるから、先に食べてて」
「できるまでワンコたちと遊んでるから一緒に食べよう。あとこれ、忘れてった靴」
にっこりと笑いかけて紙袋を手渡される。
今日は機嫌がいいらしく、学校にいるときよりにこにこしている。
お酒はよくない。
私も同じ気持ちだったので、靴の袋を受け取り、冷蔵庫からペリエとウーロン茶を出した。
ワンコたちに癒され、料理も好きなのでついついルンルン気分でいたけれど、これからとても話しにくい話をしなければならない。
「亮君って目が悪いの?」
私は話さなければならないテーマから逃げるように、そんな話題を亮君に振っていた。
「なんで?」
「昔は眼鏡かけてなかったでしょ?前髪長いと、余計目が悪くなっちゃうって何かの記事で読んだよ。ファッションのためとかだったら、別にいいんだけど。あ、これ生徒指導じゃないからね」
うちの学校は、服装や髪形の指導は、ほとんどしていない。
「視力は悪くないんだけど……」
「視力悪くないのに眼鏡かけてるんだ。今、伊達メガネ流行ってるの?」
高校生の間で何が流行ってるのか、チェックしていない私。
職務怠慢かもしれない。
「んー。視力は悪くないんだけど、目の色がちょっと変だから。それにあまり目立ちたくないし。それで……」
亮君は少し恥ずかしそうに、そういった。
!?
亮君が何を言っているのか、理解するのに時間がかかった。
「え?亮君誰かにいじめられてる?」
「ぶはっ。いじめられてるわけじゃないけど。やっぱり千織ちゃんみたいに黒い瞳って綺麗で憧れる。まぁ、できるだけ目立ちたくないって理由の方が大きいかな」
私は亮君をいじめているやつがいるなら、懲らしめてやろうと思っていたけれど、亮君はテティをわしゃわしゃ撫でながら、笑ってそう言った。
確かに亮君は背が高いので、いるだけで目立つ。
そこにいるだけで注目浴びちゃうって、普通に生活する上で面倒なのかもしれない。
「私は亮君の目はすごいきれいだってずっと思ってるけどね。本人はそうでもないのか。色々な価値観があるんだね。日本だと瞳の色が黒とかこげ茶とかの人が多いけど、亮君の瞳きれいだって思う人きっとたくさんいると思うよ」
私は何となくもったいないような気がした。
こんなに綺麗なものを隠しちゃうなんて。
でも本人の意思に委ねるべきことだよな、とも思い、複雑な気持ちになった。
「千織ちゃんはどっちがいいと思う?」
そう言って亮君は眼鏡をはずした。
「うん。私は眼鏡なくてもいいと思う。それから、前髪ももっと短くしてもいいんじゃないかなって。目立ちたくないなら、逆効果になっちゃうだろうけどね」
私がそう言うと、亮君は前髪を手櫛でかき上げて後ろに流した。
亮君と目が合った私は、なぜかドキッとしてしまった。
素顔の亮君は、すっかり綺麗な男の人になっていた。
堀深めの顔立ちに、バランスよく整えられた各パーツが配置されている。
印象的な切れ長の目は、今はワンコに向けられ、やさしく細められている。
子供の頃あんなに美少女だったのが嘘のように、今の亮君は男の人にしか見えない。
白Tとジーパンでワンコと戯れているだけなのに、雑誌の表紙を飾れそうな雰囲気があった。
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