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 エリは、「まぁ、もういいけど」とあっさり引き下がった。

 どういうことかといぶかしく思っていると、突然ユリアちゃんが大きく手を振り出した。
 ウィンドウの向こうに、知り合いでもいるようだ。

 「エリさん、まぁくん来ました」

 ユリアちゃんがエリに囁いた。
 どうやら『まぁくん』なる人物が中に入ってくるようだ。
 ユリアちゃんは、ここで待ち合わせしていたらしかった。

 「今日、これから同伴なんですよー。迎えに来てもらっちゃいました」

 かわいい営業スマイルを浮かべて、ユリアちゃんが報告してくる。

 私は初対面の人に挨拶するという苦手なイベントに備え、2人に合わせて椅子から立ち上がり、同じく営業スマイルを作って入ってくる人のほうを向いた。

 うん、知っている人だった。

 「まぁくん時間ぴったり。さすがー!えっと、こちらがうちのオーナーよりずっとすごく偉い人のお嬢さんでエリさん。隣がエリさんのお友達の千織さん。こちらは私がすっごくお世話になってるまぁくんです」

  ユリアちゃんが紹介してくれた。
 私は、もちろん混乱していた。
 同時に、ほぼ全てを察してもいた。

 おそらく、これがエリが先週『調べてみる』と言っていたことの全貌なのだろう。

 まぁくんとやらがどんな顔をするか興味があったけれど、少し眉が動いただけで動じていないようだった。

 この程度の修羅場慣れているか、私がサングラスをして普段と全く違う格好をしているので気づいていないかのどちらかだろう。

 「今日のバッグもアクセも服も靴も全部まぁくんに貰ったんです。まぁくんはこの若さでIT系企業の社長さんなんですよ。私が免許取ったので、今日はこれから2人で車を見に行くんです。何件か回りたいので失礼しますねー」

 最後に私にだけ分かるように申し訳ないような、同情するような目を向けてユリアちゃんはまぁくんと出ていった。

 私は椅子に座った。
 エリも椅子に座る。

 エリは心配そうに私を見ていたけれど、私は冷静だった。

 「つまり、私はユリアちゃんの車の代金を貢ぐところだった、って感じか。それだったら仲介者抜きで直接ユリアちゃんからおねだりされたかったよ。ユリアちゃんが履いてたあの靴は私が選んだようなものだからね。私が雑誌見ながらあの靴の素晴らしさ語ったから」

 全く悲しくなかった。
 好きだったわけではない。

 25にもなって彼氏がいないことに対する焦り80%、その場の勢い20%で付き合ったみたいなものだし、出会って日も浅い。

 頭ではわかっている。

 それなのに涙が出ていた。
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