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連日暑い日が続いている。
ミルナー侯爵家の別荘は、立て続けに不幸が起こったことなど嘘のように湖畔に美しくたたずんでいた。
山にある別荘は、王都に比べればいくぶん暑さが内場だが、太陽の光はより近く感じる。
湖があるおかげで、風が吹くと涼しい風が運ばれてくるのが救いだった。
馬車が到着するのに合わせ、使用人たちが外で出迎えてくれていた。
「ようこそおいでくださいました。主に代わりまして、おもてなしさせていただきます。別荘の管理を任されておりますロジャーと申します」
ロジャーは30代くらいのひょろりとした長身の男性だった。
ロジャーは背後に控えている使用人たちをそれぞれサラに紹介してくれた。
「数日間滞在させていただきます。サラです。ミルナー侯爵夫人から私の来意について連絡を受けているのかしら?」
「はい。アイリスお嬢様のお部屋にご用があると伺っております。鍵をお渡しいたしますので、ご自由にお入りください」
ロジャーはサラにアイリスの部屋の鍵を手渡した。
「ありがとう。お世話になります」
ロジャーに導かれ、歩いて行く。
「王都に比べれば内場だけれど、ここも暑いわね」
つい歩きながら愚痴が出てしまった。
「さようでございますね。このあたりは雨も降らず暑い日が続いております。湖のそばの東屋ですと、比較的涼しくお過ごしいただけるようでございます。調えてございますので、ぜひお使いください」
「ええ。ありがとう」
話ながら着いたのは前回ソフィアが使った部屋だった。
今回は他に宿泊客がいないので、最高の部屋を用意してくれたようだ。
「連れの者が来ることになっているの。来たら私はアイリスの部屋にいると伝えてくださる?」
「はい。かしこまりました。お連れ様のお部屋はお隣にご用意してございます」
(隣?ずいぶん近いわ)
『同じ部屋に泊まる…とか?』
急にリチャードの言葉が蘇ってきて、急に首筋が熱くなった。
今更部屋を離してほしいとも言いにくい。
結局何も言わず、ただうなずいた。
「ご用がありましたらいつでもお呼びください」
「ええ、ありがとう」
サラは少しだけ部屋から景色を眺め、すぐにアイリスの部屋に向かった。
机の引き出しを開けて目当ての物を探すが見つからない。
机の上にはサラが以前この部屋を訪ねた時と同様に本が積み上げられている。
(おかしいわね。机の上に参考資料が積み上げられているのだから、アイリスはこの机で本を書いていたと思うのだけど…)
コンコン
ノックの音が響いた。
「どうぞ」
サラは捜し物を続けたまま、おざなりに対応した。
「俺には何の得もないが、来てやったぞ。…何か捜し物か?」
到着したリチャードが声をかけても振り向かず、サラは捜し物を続けている。
「リチャード、これを見て」
サラは手を止め、持ってきたバッグの中から細い紙きれを取り出しリチャードに差し出した。
「『あの方と一緒になれないのなら生きていても仕方ありません。私は命を絶ちます』か。これはアイリスの遺書か?」
「ええ。もちろん本物ではなく私が再現したものだけど」
「随分細いな」
「そうなのよ。細い紙に遺書を書いたというよりも、まるで…」
「前後にも文章がある中から切り取ったように見えるな」
「あなたもそう思う?」
「ああ」
「なぜシェリントン子爵はこれを遺書だと考えたのかしら?前後にも何らかの文章があったはずじゃない?それを探そうとはしなかったのかしら?」
サラはアイリスの遺書を見た時から考えていた疑問をリチャードにぶつけた。
「そりゃあ、文章の内容だろうな。例えば手紙や日記にこんなことを書くか?これがアイリスの直筆で書いてある以上、アイリスの遺書と考えても不自然ではないだろう」
「やっぱりそうよね。私ね、もし私がこの文章をかくとしたら、何に書くかを想像したの。そしたらまず一番最初に思い浮かんだのは日記だった。日記にこの文章を書いたということは、自殺を考えていると取られても仕方ないと思うわ。でもね、アイリスは本を書こうとしていたでしょ?私は、この部屋でアイリスの書いていた本を探しているの。もしかしたらアイリスの書いていた本にその一文があったかもしれないと思って。本の中の一文ならば、この文章がアイリスの直筆で書かれていたとしても、アイリスに自殺の意志があることにはならないはずよ。だけど見つからないのよ。あなたも探してくれない?」
「どんなものなんだ?」
「私も実物を見たわけではないからわからないのだけど…。おそらく、本を書くと言ってもまだ最初の所を書き始めたばかりだと言っていたから、そう多くない紙の束だと思うわ…。この机で書いていたみたいだから、ここを中心に探しているんだけど、見つからないのよね」
紙の束を思い浮かべた時に、頭に浮かんだ光景があったが、関係ないだろうと結論付けた。
「内容は?」
「確かこの湖にまつわる伝説をモチーフにしているって言ってたわ」
「湖ねぇ…」
リチャードはつぶやき、寝室の方を探しに行った。
夕方になるまで2人で探していたけれど、本の原稿らしきものも手紙も見つからなかった。
「なぁ、いっそのことアイリスの書いていた本の内容を想像してみないか?この湖にまつわる伝説がモチーフなら、その伝説について調べれば内容を想像できるかもしれないだろ?」
「それは良い考えね」
サラは別荘の管理人・ロジャーに湖の伝説について尋ねてみたが、ロジャーは知らなかった。
この別荘で働く者たちは王都で採用されたらしく、皆このあたりのことには詳しくないらしい。
サラはリチャードを誘い、翌日近くの村に伝説について聞きに行くことにした。
ミルナー侯爵家の別荘は、立て続けに不幸が起こったことなど嘘のように湖畔に美しくたたずんでいた。
山にある別荘は、王都に比べればいくぶん暑さが内場だが、太陽の光はより近く感じる。
湖があるおかげで、風が吹くと涼しい風が運ばれてくるのが救いだった。
馬車が到着するのに合わせ、使用人たちが外で出迎えてくれていた。
「ようこそおいでくださいました。主に代わりまして、おもてなしさせていただきます。別荘の管理を任されておりますロジャーと申します」
ロジャーは30代くらいのひょろりとした長身の男性だった。
ロジャーは背後に控えている使用人たちをそれぞれサラに紹介してくれた。
「数日間滞在させていただきます。サラです。ミルナー侯爵夫人から私の来意について連絡を受けているのかしら?」
「はい。アイリスお嬢様のお部屋にご用があると伺っております。鍵をお渡しいたしますので、ご自由にお入りください」
ロジャーはサラにアイリスの部屋の鍵を手渡した。
「ありがとう。お世話になります」
ロジャーに導かれ、歩いて行く。
「王都に比べれば内場だけれど、ここも暑いわね」
つい歩きながら愚痴が出てしまった。
「さようでございますね。このあたりは雨も降らず暑い日が続いております。湖のそばの東屋ですと、比較的涼しくお過ごしいただけるようでございます。調えてございますので、ぜひお使いください」
「ええ。ありがとう」
話ながら着いたのは前回ソフィアが使った部屋だった。
今回は他に宿泊客がいないので、最高の部屋を用意してくれたようだ。
「連れの者が来ることになっているの。来たら私はアイリスの部屋にいると伝えてくださる?」
「はい。かしこまりました。お連れ様のお部屋はお隣にご用意してございます」
(隣?ずいぶん近いわ)
『同じ部屋に泊まる…とか?』
急にリチャードの言葉が蘇ってきて、急に首筋が熱くなった。
今更部屋を離してほしいとも言いにくい。
結局何も言わず、ただうなずいた。
「ご用がありましたらいつでもお呼びください」
「ええ、ありがとう」
サラは少しだけ部屋から景色を眺め、すぐにアイリスの部屋に向かった。
机の引き出しを開けて目当ての物を探すが見つからない。
机の上にはサラが以前この部屋を訪ねた時と同様に本が積み上げられている。
(おかしいわね。机の上に参考資料が積み上げられているのだから、アイリスはこの机で本を書いていたと思うのだけど…)
コンコン
ノックの音が響いた。
「どうぞ」
サラは捜し物を続けたまま、おざなりに対応した。
「俺には何の得もないが、来てやったぞ。…何か捜し物か?」
到着したリチャードが声をかけても振り向かず、サラは捜し物を続けている。
「リチャード、これを見て」
サラは手を止め、持ってきたバッグの中から細い紙きれを取り出しリチャードに差し出した。
「『あの方と一緒になれないのなら生きていても仕方ありません。私は命を絶ちます』か。これはアイリスの遺書か?」
「ええ。もちろん本物ではなく私が再現したものだけど」
「随分細いな」
「そうなのよ。細い紙に遺書を書いたというよりも、まるで…」
「前後にも文章がある中から切り取ったように見えるな」
「あなたもそう思う?」
「ああ」
「なぜシェリントン子爵はこれを遺書だと考えたのかしら?前後にも何らかの文章があったはずじゃない?それを探そうとはしなかったのかしら?」
サラはアイリスの遺書を見た時から考えていた疑問をリチャードにぶつけた。
「そりゃあ、文章の内容だろうな。例えば手紙や日記にこんなことを書くか?これがアイリスの直筆で書いてある以上、アイリスの遺書と考えても不自然ではないだろう」
「やっぱりそうよね。私ね、もし私がこの文章をかくとしたら、何に書くかを想像したの。そしたらまず一番最初に思い浮かんだのは日記だった。日記にこの文章を書いたということは、自殺を考えていると取られても仕方ないと思うわ。でもね、アイリスは本を書こうとしていたでしょ?私は、この部屋でアイリスの書いていた本を探しているの。もしかしたらアイリスの書いていた本にその一文があったかもしれないと思って。本の中の一文ならば、この文章がアイリスの直筆で書かれていたとしても、アイリスに自殺の意志があることにはならないはずよ。だけど見つからないのよ。あなたも探してくれない?」
「どんなものなんだ?」
「私も実物を見たわけではないからわからないのだけど…。おそらく、本を書くと言ってもまだ最初の所を書き始めたばかりだと言っていたから、そう多くない紙の束だと思うわ…。この机で書いていたみたいだから、ここを中心に探しているんだけど、見つからないのよね」
紙の束を思い浮かべた時に、頭に浮かんだ光景があったが、関係ないだろうと結論付けた。
「内容は?」
「確かこの湖にまつわる伝説をモチーフにしているって言ってたわ」
「湖ねぇ…」
リチャードはつぶやき、寝室の方を探しに行った。
夕方になるまで2人で探していたけれど、本の原稿らしきものも手紙も見つからなかった。
「なぁ、いっそのことアイリスの書いていた本の内容を想像してみないか?この湖にまつわる伝説がモチーフなら、その伝説について調べれば内容を想像できるかもしれないだろ?」
「それは良い考えね」
サラは別荘の管理人・ロジャーに湖の伝説について尋ねてみたが、ロジャーは知らなかった。
この別荘で働く者たちは王都で採用されたらしく、皆このあたりのことには詳しくないらしい。
サラはリチャードを誘い、翌日近くの村に伝説について聞きに行くことにした。
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