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ミルナー侯爵の別荘から王都に帰って2週間、サラは各家の葬儀に参列した後、体調不良を理由に家でだらだらしていた。

別荘での出来事はすでに社交界での大変な話題になっているようで、サラが話さずとも両親は何があったのかよく知っているようだった。

サラとアイリスが親しくしていたことは両親もよく知っている。

そのおかげか、両親はサラが部屋引きこもっていても特に文句を言うことなく見守ってくれていた。


サラがベッドから起き上がりボーッとしていると、にわかに階下が騒がしくなり、しばらくすると部屋にエミリーが入ってきた。

「良かった。お嬢様、起きてましたか。大奥様がいらっしゃいました。旦那様が少し顔を見せなさいとおっしゃっておいでです」

「おばあ様がいらっしゃったのね。分かったわ。支度するから手伝って」

サラの祖母は祖父亡き後、王都からほど近い温泉地に別荘を建て悠々自適な生活を送っている。

祖母は娘(サラの父の姉)を若くして亡くしており、墓参りのため毎月王都にやってきていた。

ほとんどの場合ここには寄らずにすぐ帰るのだが、今日は寄ったようだ。

(なぜだかおばあ様には苦手意識があるのよね。優しい方だと思うのだけど…)



支度を終えたサラは祖母と両親の待つ応接室に向かった。

扉を開けようとすると、中から興奮したような話し声が聞こえてきた。
いつになく会話が弾んでいるようだ。

扉を開け中に入ったサラが祖母に挨拶しようとするより早く、祖母がサラの肩をつかみ興奮した様子でサラの体を大きくゆすった。

「天罰が下ったのね。ついに天罰が。アンジェラの祈りがまた届いたんだわ!」

祖母は目をカッと開き強い力でサラの体をゆすっている。

かなり強い力だ。

(おばあ様、一体どうしちゃったの!?)

祖母の様子は普段と全く違っていた。

まるで悪魔にでも憑かれたようだ。

墓参りの後、祖母がここに寄ることはあるが、いつもはお茶を飲みながら静かに話をして帰っていく。

こんな風に大声を出して興奮し、サラに掴みかかることはない。

(あっ、でも遠い昔にもこんなことがあったような気がするわ)

サラが昔に想いを飛ばそうとした時、祖母に強引にソファに座らされた。

隣には困惑した様子の母が、その隣には疲れた顔の父が座っていた。

「サラ、あなたはミルナー侯爵の別荘にいたんでしょう?詳しく話を聞かせてちょうだい。どう天罰が下ったのか!」
祖母は大声でサラに迫ってくる。

(おばあ様が何を言っているのか分わからない)

サラは困惑し、両親に視線で助けを求めた。

「サラ、おばあ様は別荘であった事件の話を聞きたいそうだよ。サラはそのことで心を痛めているからと話したんだが、どうしても聞きたいらしい」

父が助け舟を出した。

「はぁ。天罰って一体どういうことですか?」

事件の話を聞きたいということは分かった。しかし祖母の言う『天罰』や『祈り』とは一体どういうことだろうか。

祖母は怪しげなカルト宗教にでもはまってしまっているのだろうか。

別荘での1人暮らしは危険なのではないか、ここで一緒に暮らすべきなのではないかと心配になった。

「まぁ、サラにはアンジェラの手紙のことは話さなかったかしらね?」

祖母は少し興奮が醒めてきたようで、本来の落ち着きを取り戻してきた。

「アンジェラって、アンジェラ伯母さまですか?若くして亡くなったというお父様のお姉様の」

サラの知るアンジェラは、そのアンジェラしかいなかった。

「ええ。そうですよ。まぁ。そうだったの。サラは知らなかったのねぇ。困ったわ。ではこうしましょう。アンジェラの手紙を見せますから、あなたはこれから私の家に来なさい。では支度をしてきて」

祖母は決定を下したようだ。

サラが父を見ると、父は無言でうなずいていた。
『行け』ということらしい。

仕方なくサラは支度をし、祖母と馬車に乗り込んだ。
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