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夜、これだけの騒ぎになってしまったためだろう、大広間に招待客たちが集められ、シェリントン子爵が今回の件について報告をすることになった。

シェリントン子爵はマーガレットとウォルターが湖で小舟を転覆させて亡くなった様子であること、さらにアイリスも部屋で亡くなっていたこと、アイリスの死に事件性はないことを報告した。

「えー、皆さま。このような事故が起きてしまいミルナー侯爵夫妻は大変気落ちしていらっしゃいます。せっかくお集まりいただきましたが、予定されていた夜会は全て中止したいとのことです。皆様におかれましては、今すぐお帰りになっても、予定通り滞在して頂いても構わないそうですが侯爵夫妻はおもてなしができないと仰せでした。短くなりましたが、私からのご報告は以上です。では、私もやらなければならないことがございますので、これにて失礼いたします」

シェリントン子爵はそれだけ言うと壇上を降りた。

集まった招待客たちはシェリントン子爵を質問攻めにしたが、子爵は報告書を書かなければならないからと呼び寄せた部下を連れて足早に戻ってしまった。

大広間での報告はものの数分で終わったが、多くの人は大広間にとどまり続け今回の事件について話し合っていた。

シェリントン子爵は、マーガレットとウォルターの事故について話した後アイリスの死を報告した。

そのため多くの人はマーガレットとウォルターの死にショックを受け、アイリスが自殺したと勘違いしていたようだった。

しかし実際に亡くなった順番は逆だ。


サラは独り庭に出てベンチに腰掛け夜空を眺めていた。

隣にリチャードが座り同じように夜空を見上げた。

「なぁ、マーガレットとウォルターのことだが、2人は本当に事故だと思うか?」
「私もそれを考えていたの」

「マーガレットとウォルターは家族なんだからアイリスの死を知っていたはずだろう?恐らく遺書の内容も。そうだとするとアイリスが自分たちの婚約を苦に自殺したと考え、2人も命を絶ったと考えられないか?」

リチャードは自分の考えをサラに伝えた。

「そうね。マーガレットとウォルターの婚約発表があって、その翌日にアイリスがあんな遺書を残して亡くなったのだから、アイリスは2人の婚約を苦に自殺したとも考えられる。私もそれを一度考えたの。でも、アイリスとマーガレットは家族よ。マーガレットとウォルターの婚約のことは発表されるまでもなく知っていたはず。だったらわざわざ婚約発表の翌日に死ななくてもいいんじゃない?」

サラも一度はアイリスの好きな人はウォルターだったと考えた。

しかし婚約発表の日、近くにいた少女たちすら2人が相思相愛だと知っていた。

アイリスも知っていたはずで、知っていたならあのタイミングで自殺するのはおかしいと思う。

「それこそがアイリスの狙いだよ。2人の婚約発表の翌日に自分が自殺すれば、婚約と自殺が関連付けられると思ったんじゃないか?それにアイリスが自殺すれば結婚は延期になるだろうし婚約自体が見直されるかもしれないだろう?2人の婚約話が出た時からアイリス嬢は毒を入手し計画してたんじゃないか?自分の命と引き換えに妹の婚約話を破談にしようという計画だ」

「なんだかあなたの話に出てくるアイリスって、私の知ってるアイリスとは全然違う人みたい。アイリスはそういう計算高くて底意地の悪い女性ではなかったと思うわ。少なくとも私の知ってるアイリスは。もちろん裏の顔があったのかもしれないけれど…。でもやっぱり違うと思う。ただ毒のことは気になるわね。アイリスはどうやって毒を手に入れたのかしら?毒を持っていたということは、前々から自殺することを決めていたということになるわよね。でも、とてもそんな風には見えなかったわ。そもそも何の毒なのかしら?」

サラは毒を手に入れようとしたことはないけれど、買おうと思ってすぐに手に入れられるものではないはずだ。

人に知られず入手可能なのだろうか?

どのくらいの量を飲めば死ねるのだろうか?

どんな味がするのだろうか?

まったく見当が付かない。

「さぁな。気になるならシェリントン子爵に聞いてみるか?かなり忙しそうだったが」

「いいのよ。邪魔したくない。きっと私が考えても答えは出ないでしょう」
そうは思うものの、考えるのはやめられない。
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