上 下
23 / 24

経緯

しおりを挟む
「待て、勝手に落着させるな。こっちは何も解決していないんだからな、リュシー。お前はこの1か月間、一体なにをしていた?本当に領地に帰っていたのか?どうして地下にいた?おかしな噂を流した目的は何だ?全部説明しろ」

すっきり爽快気分の私と違い、イザックは眉間にしわを寄せ怖い顔で説明を求めてきた。

「説明すると長くなるのだけど、要するにね、私はあなたが私との結婚を白紙に戻そうとしていると勘違いをしてしまったの」

「そうだと言っていたな」

「だけど、そんなの絶対に嫌だ、私がイザックと結婚するんだって思ったの。だからどうしてイザックが結婚を白紙に戻そうとしているのか調べたの。そしたら、お姉様と妹のどちらかに恋をしている可能性が高いと気づいたの」

「お前の姉と妹か?なぜそうなる!」
イザックはポカンとした表情で私を見ている。
眉間の皺が消えているので、良い兆候かもしれない。

「本に書いてあったのよ。姉妹というのは略奪者なの」

「大丈夫か?」

イザックは不憫な物を見るような目をしていた。
何に対して大丈夫かと聞いているのかは分からない。けれど“大丈夫か”と聞かれたら、“大丈夫”と答えておけばいいだろう。

「もちろん大丈夫よ。それでね、お姉様にイザックからの結婚申し入れを拒絶してもらおうと思って、領地に帰っていたの」

「お前の姉は結婚しているだろう?」

「えぇ。だけど王族ならば教会を買収したり圧力をかけたりして白い結婚だと嘘の証明をさせることもできるのかもしれないと考えたの」

「はぁ~~~~」
イザックは大きなため息をついた。

「もういい。それで、領地から帰って地下に潜入したのか?あそこは使用人の暮らすところのはずだ」

「えっと、話してもいいんだけど、絶対に怒ったり誰かを罰したりしない?」

「あぁ、しない」

「じゃあ話すわ。お姉様と妹のエマとは話をつけたのだけど、イザックの思い人が本当に私の姉妹なのか確証がなかった。だから私はさらに調査をしたの。そうしたら、侍女というのはかなり危険な存在だと知ったのよ。私は、もしかしたらイザックの思い人は侍女なのではないかと考えたの。でも侍女ってたくさんいるでしょう?だから相手の侍女が誰なのか特定するために王宮に潜入することを思いついたの。ちょうど王宮で働くことになったって人を見つけたから、その人と1週間だけ入れ替わらせてもらったって訳」

必死だったからできたことだけれど、私の行動力はなかなかすごいと思う。
よく頑張ったと自分を褒めてあげたい。

「突っ込みどころだらけだが、エマはまだ子供だな?」

「そうよ。でもリナに聞いたら、そういう人もいるって言っていたの」

「そうか…。少し疲れたから、横になって話を聞くことにする」
そう言うと、イザックは肘をついて横になった。

「使用人に紛れ込んだのは分かった。それで、どうして噂を広めた?」

「私は噂を広めてなんかないわ。集めてたのよ。毎晩大浴場で“イザック殿下の思い人の侍女が誰か知りませんか?”って聞いて情報を集めていたの。最初は誰も知らなかったのだけど、最終日に噂を知っているという人に出会って、ラーラとローザという名前を教えてもらったという訳」

「なるほどな。お前は噂を集めているつもりだっただろうが、やっていることは噂を広めているのと変わらなかったんだ。どうやって噂が広まるか知った気分だ。これからは噂を鵜呑みにするのをやめることにする」

「そうね。それがいいわ」

「お前が言うな」

ぴしゃりと言われ、私は肩をすぼめて小さくなった。
イザックの話を聞いて、私が悪かったのだと知った。

噂を集めようとして私が質問した人たちが、誰か別の人に話をして、それが数日かけて噂として流れるようになったのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

(完)愛人を作るのは当たり前でしょう?僕は家庭を壊したいわけじゃない。

青空一夏
恋愛
私は、デラックス公爵の次男だ。隣国の王家の血筋もこの国の王家の血筋も、入ったサラブレッドだ。 今は豪商の娘と結婚し、とても大事にされていた。 妻がめでたく懐妊したので、私は妻に言った。 「夜伽女を3人でいいから、用意してくれ!」妻は驚いて言った。「離婚したいのですね・・・・・・わかりました・・・」 え? なぜ、そうなる? そんな重い話じゃないよね?

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

聖人な婚約者は、困っている女性達を側室にするようです。人助けは結構ですが、私は嫌なので婚約破棄してください

香木あかり
恋愛
私の婚約者であるフィリップ・シルゲンは、聖人と称されるほど優しく親切で慈悲深いお方です。 ある日、フィリップは五人の女性を引き連れてこう言いました。 「彼女達は、様々な理由で自分の家で暮らせなくなった娘達でね。落ち着くまで僕の家で居候しているんだ」 「でも、もうすぐ僕は君と結婚するだろう?だから、彼女達を正式に側室として迎え入れようと思うんだ。君にも伝えておこうと思ってね」 いくら聖人のように優しいからって、困っている女性を側室に置きまくるのは……どう考えてもおかしいでしょう? え?おかしいって思っているのは、私だけなのですか? 周囲の人が彼の行動を絶賛しても、私には受け入れられません。 何としても逃げ出さなくては。 入籍まであと一ヶ月。それまでに婚約破棄してみせましょう! ※ゆる設定、コメディ色強めです ※複数サイトで掲載中

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

たとえこの想いが届かなくても

白雲八鈴
恋愛
 恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。  王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。 *いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。 *主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)

処理中です...