7 / 24
穴を掘る
しおりを挟む
ベッドに横になっても、なかなか寝付けない。
9歳と言えば、初めて私が“第二王子イザック”と出会った頃だ。
あの日、この領地の屋敷に国王陛下御一家が泊まったのだ。
どこかへご家族で行った帰りだったのかもしれないし、どこかへ行く途中だったのかもしれない。
滞在はわずか数日のことだったと思う。
何週間も前から大人たちは大掃除をしたり、走り回ったりピリピリしたり大忙しの様子だった。
その日、私はお母様から「おとなしくしているように」と言われ、大人しく穴を掘っていた。
ちょうどそのころ、はじめて推理小説を読んだ私は、推理小説にはまっていた。
人が殺されるというのが新鮮で、パズルのように様々なヒントが1つの物語になっていくのが読んでいて楽しい。
その時読んでいた小説の犯人が、死体を穴に埋めていたのを見て、私も死体になって埋まってみようと思った。
穴を掘るのにちょうどよさそうな広場を見つけ、穴を掘っていく。
小説を読んでいるときは、穴なんて簡単に掘れると思っていた。
けれど実際に掘ってみると、少し掘っただけで汗が噴き出してきた。
大きな石に行きあたったり、木の根があったりで、それをどけるのが一苦労だ。
深く掘ろうとすると、そういうのに何度も行きあたり骨が折れる。
特に石が厄介で、石をどかすために穴を広げなければならなかったりと、時間を奪われる。
自分の膝位の深さの小さな穴を掘るだけで、疲れて休んでしまった。
息が切れて、ハァハァと肩で呼吸をする。
すでに何時間も穴を掘っているように感じた。
こんなに疲れたのは、初めてだった。
(死体を埋めるのって、大変なのね)
そう思ったのを覚えている。
「あれ?お前は ちびすけ、リュシーか?」
名前を呼ばれて振り返ると、すぐ近くにイザックがいた。
見違えるほど背が高くなっていたけれど、間違いない。
あの日と変わらぬ青い瞳と黒い髪。
「イザック?どうしてうちにいるの?もしかして、お客様?」
大切なお客様が来るからと、最近大人たちは忙しそうにしていた。
「そうだ。お客様だ。そうか、お前はカナルソル侯爵家の娘だと言っていたな。何をしているんだ?」
「死体を埋めようと思っているの」
「死体?」
イザックは怪訝そうな顔をした。
「そうよ。そうだ!このシャベルを貸してあげるから、イザックも手伝ってくれる?イザックが死体役ね!」
私は大きい方のシャベルを手渡した。
私が9歳だったので、イザックは13歳。
背も伸びて力もつき、穴を掘るには強力な助っ人になってくれた。
2人で一生懸命穴を掘って、昼食を食べてからもまた掘って。
「イザック、この石、外に出してくれる?」
大きな石もイザックに任せると自分でやるよりもずっと早く取り去ることができた。
「出てくるのは丸い石ばかりだな。もしかしたらこの辺りは昔、川の底だったのかもしれない」
出てきた大きな石を抱え、イザックは言った。
地面の上には、穴を掘っているうちに見つけた、10個以上の丸石が集まっている。
私の頭位の大きなものから握りこぶし大のものまで大きさはさまざま。
「ここは川の底だったの?どうしてわかるの?」
「山に行ったことがあるか?山の上にある石はゴツゴツしているんだ。山の石が川に流され、流されながら丸くなっていく。こんなにたくさん丸い石が出てくるから、ここは川の底だったのかもしれないと思ったんだ」
イザックは汗を拭きながら説明してくれた。
「イザックって物知りなのね。すごいわ」
イザックは迷子の私を助けてくれた真の貴族で、力持ち。その上博識のようだ。
ますますイザックのことが好きになった。
それからも力を合わせて頑張り、ちょうどイザックが寝転がれるくらいの穴を掘ることができた。
「ちょっと、イザック寝てみて」
私が言うとイザックは面白がり、死体役をやってくれた。
穴が浅すぎて、イザックが寝ると体が地面からはみ出てしまっていた。
「もっと掘らないとダメみたい。この上に土をかけたら、ここに死体がありますって言っているようなものだわ」
「まだ掘るのか、死体を隠すってのも大変なんだな」
イザックは穴の中で寝たまま呟く。
私が思っていたのと同じことを彼は言ったので、私はとっても嬉しくなった。
その時。
「リュシー、一体そこで何をしているの?って、まぁ殿下…。リュシー!殿下に何をさせているの!!!」
お母様に見つかった。
お母様は穴の中に寝そべっているイザックを見て、真っ青になっていた。
「おとなしくしていろって言われたから、おとなしく穴を掘っていただけです。どうして怒るんですか?」
反論もむなしく、私は強制的に部屋に連れて帰られ、叱られた。
おとなしくしていろ、と言われたら部屋に居なさい。
あの場所に穴を掘ってはいけない。
死体役をやらせていたのは、イザック殿下と言ってこの国の第二王子なのだ。
イザック殿下とお呼びしなさい。
その日、私はイザックが尊い身の上だと知った。
(思い出してみると、イザックって昔から小さい子に優しかったのよね。だったらエマを好きになって、大人になるまで待ちたいと思ってもおかしくないのかも…)
ベッドに横になって考えていると、涙が横に流れた。
9歳と言えば、初めて私が“第二王子イザック”と出会った頃だ。
あの日、この領地の屋敷に国王陛下御一家が泊まったのだ。
どこかへご家族で行った帰りだったのかもしれないし、どこかへ行く途中だったのかもしれない。
滞在はわずか数日のことだったと思う。
何週間も前から大人たちは大掃除をしたり、走り回ったりピリピリしたり大忙しの様子だった。
その日、私はお母様から「おとなしくしているように」と言われ、大人しく穴を掘っていた。
ちょうどそのころ、はじめて推理小説を読んだ私は、推理小説にはまっていた。
人が殺されるというのが新鮮で、パズルのように様々なヒントが1つの物語になっていくのが読んでいて楽しい。
その時読んでいた小説の犯人が、死体を穴に埋めていたのを見て、私も死体になって埋まってみようと思った。
穴を掘るのにちょうどよさそうな広場を見つけ、穴を掘っていく。
小説を読んでいるときは、穴なんて簡単に掘れると思っていた。
けれど実際に掘ってみると、少し掘っただけで汗が噴き出してきた。
大きな石に行きあたったり、木の根があったりで、それをどけるのが一苦労だ。
深く掘ろうとすると、そういうのに何度も行きあたり骨が折れる。
特に石が厄介で、石をどかすために穴を広げなければならなかったりと、時間を奪われる。
自分の膝位の深さの小さな穴を掘るだけで、疲れて休んでしまった。
息が切れて、ハァハァと肩で呼吸をする。
すでに何時間も穴を掘っているように感じた。
こんなに疲れたのは、初めてだった。
(死体を埋めるのって、大変なのね)
そう思ったのを覚えている。
「あれ?お前は ちびすけ、リュシーか?」
名前を呼ばれて振り返ると、すぐ近くにイザックがいた。
見違えるほど背が高くなっていたけれど、間違いない。
あの日と変わらぬ青い瞳と黒い髪。
「イザック?どうしてうちにいるの?もしかして、お客様?」
大切なお客様が来るからと、最近大人たちは忙しそうにしていた。
「そうだ。お客様だ。そうか、お前はカナルソル侯爵家の娘だと言っていたな。何をしているんだ?」
「死体を埋めようと思っているの」
「死体?」
イザックは怪訝そうな顔をした。
「そうよ。そうだ!このシャベルを貸してあげるから、イザックも手伝ってくれる?イザックが死体役ね!」
私は大きい方のシャベルを手渡した。
私が9歳だったので、イザックは13歳。
背も伸びて力もつき、穴を掘るには強力な助っ人になってくれた。
2人で一生懸命穴を掘って、昼食を食べてからもまた掘って。
「イザック、この石、外に出してくれる?」
大きな石もイザックに任せると自分でやるよりもずっと早く取り去ることができた。
「出てくるのは丸い石ばかりだな。もしかしたらこの辺りは昔、川の底だったのかもしれない」
出てきた大きな石を抱え、イザックは言った。
地面の上には、穴を掘っているうちに見つけた、10個以上の丸石が集まっている。
私の頭位の大きなものから握りこぶし大のものまで大きさはさまざま。
「ここは川の底だったの?どうしてわかるの?」
「山に行ったことがあるか?山の上にある石はゴツゴツしているんだ。山の石が川に流され、流されながら丸くなっていく。こんなにたくさん丸い石が出てくるから、ここは川の底だったのかもしれないと思ったんだ」
イザックは汗を拭きながら説明してくれた。
「イザックって物知りなのね。すごいわ」
イザックは迷子の私を助けてくれた真の貴族で、力持ち。その上博識のようだ。
ますますイザックのことが好きになった。
それからも力を合わせて頑張り、ちょうどイザックが寝転がれるくらいの穴を掘ることができた。
「ちょっと、イザック寝てみて」
私が言うとイザックは面白がり、死体役をやってくれた。
穴が浅すぎて、イザックが寝ると体が地面からはみ出てしまっていた。
「もっと掘らないとダメみたい。この上に土をかけたら、ここに死体がありますって言っているようなものだわ」
「まだ掘るのか、死体を隠すってのも大変なんだな」
イザックは穴の中で寝たまま呟く。
私が思っていたのと同じことを彼は言ったので、私はとっても嬉しくなった。
その時。
「リュシー、一体そこで何をしているの?って、まぁ殿下…。リュシー!殿下に何をさせているの!!!」
お母様に見つかった。
お母様は穴の中に寝そべっているイザックを見て、真っ青になっていた。
「おとなしくしていろって言われたから、おとなしく穴を掘っていただけです。どうして怒るんですか?」
反論もむなしく、私は強制的に部屋に連れて帰られ、叱られた。
おとなしくしていろ、と言われたら部屋に居なさい。
あの場所に穴を掘ってはいけない。
死体役をやらせていたのは、イザック殿下と言ってこの国の第二王子なのだ。
イザック殿下とお呼びしなさい。
その日、私はイザックが尊い身の上だと知った。
(思い出してみると、イザックって昔から小さい子に優しかったのよね。だったらエマを好きになって、大人になるまで待ちたいと思ってもおかしくないのかも…)
ベッドに横になって考えていると、涙が横に流れた。
0
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです
菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。
自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。
生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。
しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。
そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。
この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる