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穴を掘る

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ベッドに横になっても、なかなか寝付けない。
9歳と言えば、初めて私が“第二王子イザック”と出会った頃だ。

あの日、この領地の屋敷に国王陛下御一家が泊まったのだ。

どこかへご家族で行った帰りだったのかもしれないし、どこかへ行く途中だったのかもしれない。
滞在はわずか数日のことだったと思う。

何週間も前から大人たちは大掃除をしたり、走り回ったりピリピリしたり大忙しの様子だった。
その日、私はお母様から「おとなしくしているように」と言われ、大人しく穴を掘っていた。

ちょうどそのころ、はじめて推理小説を読んだ私は、推理小説にはまっていた。
人が殺されるというのが新鮮で、パズルのように様々なヒントが1つの物語になっていくのが読んでいて楽しい。

その時読んでいた小説の犯人が、死体を穴に埋めていたのを見て、私も死体になって埋まってみようと思った。

穴を掘るのにちょうどよさそうな広場を見つけ、穴を掘っていく。

小説を読んでいるときは、穴なんて簡単に掘れると思っていた。
けれど実際に掘ってみると、少し掘っただけで汗が噴き出してきた。

大きな石に行きあたったり、木の根があったりで、それをどけるのが一苦労だ。
深く掘ろうとすると、そういうのに何度も行きあたり骨が折れる。

特に石が厄介で、石をどかすために穴を広げなければならなかったりと、時間を奪われる。

自分の膝位の深さの小さな穴を掘るだけで、疲れて休んでしまった。

息が切れて、ハァハァと肩で呼吸をする。
すでに何時間も穴を掘っているように感じた。

こんなに疲れたのは、初めてだった。

(死体を埋めるのって、大変なのね)
そう思ったのを覚えている。

「あれ?お前は ちびすけ、リュシーか?」

名前を呼ばれて振り返ると、すぐ近くにイザックがいた。

見違えるほど背が高くなっていたけれど、間違いない。
あの日と変わらぬ青い瞳と黒い髪。

「イザック?どうしてうちにいるの?もしかして、お客様?」

大切なお客様が来るからと、最近大人たちは忙しそうにしていた。

「そうだ。お客様だ。そうか、お前はカナルソル侯爵家の娘だと言っていたな。何をしているんだ?」

「死体を埋めようと思っているの」

「死体?」
イザックは怪訝そうな顔をした。

「そうよ。そうだ!このシャベルを貸してあげるから、イザックも手伝ってくれる?イザックが死体役ね!」

私は大きい方のシャベルを手渡した。

私が9歳だったので、イザックは13歳。
背も伸びて力もつき、穴を掘るには強力な助っ人になってくれた。

2人で一生懸命穴を掘って、昼食を食べてからもまた掘って。

「イザック、この石、外に出してくれる?」
大きな石もイザックに任せると自分でやるよりもずっと早く取り去ることができた。

「出てくるのは丸い石ばかりだな。もしかしたらこの辺りは昔、川の底だったのかもしれない」
出てきた大きな石を抱え、イザックは言った。

地面の上には、穴を掘っているうちに見つけた、10個以上の丸石が集まっている。
私の頭位の大きなものから握りこぶし大のものまで大きさはさまざま。

「ここは川の底だったの?どうしてわかるの?」

「山に行ったことがあるか?山の上にある石はゴツゴツしているんだ。山の石が川に流され、流されながら丸くなっていく。こんなにたくさん丸い石が出てくるから、ここは川の底だったのかもしれないと思ったんだ」

イザックは汗を拭きながら説明してくれた。

「イザックって物知りなのね。すごいわ」

イザックは迷子の私を助けてくれた真の貴族で、力持ち。その上博識のようだ。
ますますイザックのことが好きになった。

それからも力を合わせて頑張り、ちょうどイザックが寝転がれるくらいの穴を掘ることができた。

「ちょっと、イザック寝てみて」

私が言うとイザックは面白がり、死体役をやってくれた。

穴が浅すぎて、イザックが寝ると体が地面からはみ出てしまっていた。

「もっと掘らないとダメみたい。この上に土をかけたら、ここに死体がありますって言っているようなものだわ」

「まだ掘るのか、死体を隠すってのも大変なんだな」
イザックは穴の中で寝たまま呟く。

私が思っていたのと同じことを彼は言ったので、私はとっても嬉しくなった。

その時。

「リュシー、一体そこで何をしているの?って、まぁ殿下…。リュシー!殿下に何をさせているの!!!」

お母様に見つかった。
お母様は穴の中に寝そべっているイザックを見て、真っ青になっていた。

「おとなしくしていろって言われたから、おとなしく穴を掘っていただけです。どうして怒るんですか?」

反論もむなしく、私は強制的に部屋に連れて帰られ、叱られた。

おとなしくしていろ、と言われたら部屋に居なさい。
あの場所に穴を掘ってはいけない。
死体役をやらせていたのは、イザック殿下と言ってこの国の第二王子なのだ。
イザック殿下とお呼びしなさい。

その日、私はイザックが尊い身の上だと知った。



(思い出してみると、イザックって昔から小さい子に優しかったのよね。だったらエマを好きになって、大人になるまで待ちたいと思ってもおかしくないのかも…)

ベッドに横になって考えていると、涙が横に流れた。
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