上 下
2 / 24

目的

しおりを挟む
少しの間領地に帰りたいとわがままを言い、私はリナを連れ馬車に乗り込んだ。

両親はいい顔をしなかったけれど、結婚前に大好きな領地の景色をどうしても見たくなったのだと言うと旅立たせてくれた。
まだイザックから婚約を考え直したいという連絡は来ていないので、両親は半年後には私は結婚すると思っているのだ。

今、領地には姉夫婦がいる。
私の目的はお姉様に会い話し合うこと。

我がカナルソル侯爵家は女ばかりの3姉妹。
姉のアデルは去年結婚し、夫を迎えて今年は領地で暮らしている。

お姉様は社交界でもその美貌がもてはやされ、求婚者が後を絶たなかった。
当代一の美女と、結婚した今も評されている。

イザックと婚約した私は、このままイザックと結婚し第二王子の妻として余生を過ごすのだと何の疑問もなく思っていた。

まさかイザックがこの結婚を白紙に戻そうとするとは思いもせず、イザックの周りにいる女性たちを牽制することも、イザックの心変わりを心配することもなくお気楽にのんきに過ごしていた。

しかし婚約が決まったからと安心し気を緩めていてはいけなかったのだ。

あろうことかイザックは、新婚のお姉様に恋をしてしまったらしい。
妹のエマはまだ9歳なので、イザックの恋の相手がエマということはさすがにないと思いたい。

(確かに我が家にイザックがやってくる機会は婚約話が出る前から何度かあった。我が家に来ていた目的は、お姉様?お姉様が結婚しても諦められなかった?お姉様が結婚してしまって、最初は私をお姉様の代わりにしようとしていたけれど、やっぱり私ではお姉様の代わりは務まらないと判断した?)

不穏な想像が頭の中をぐるぐると回る。

(でもお姉様は結婚しているのよ。諦めてもらわないと!)

この国では1度結婚すると再婚するのはかなり難しい。

白い結婚(夫婦の間に性的な関係がない結婚)の場合や配偶者と死別した場合など、限られた場合にしか再婚することはできない。

貴族の場合は政略結婚も多いから、結婚してから恋をするという方もいる。
けれどお姉様はそういうタイプではないはずだ。

私はお姉様と交渉し、イザックに諦めるよう言ってもらおうと思っているのだ。
お姉様がイザックの気持ちを受け入れなければ、イザックも諦めて私と結婚しようと思いなおしてくれるかもしれない。

(イザックがお姉様の説得を受けて諦めたとしても、結局私はお姉様の代わりなんだわ)

ズンと心が重くなる。
けれどあきらめずに真心で接すれば、いつかは姉のアデルではなく、私リュシーを愛してくれるようになるかもしれない。

暗く考えがちになる心を、私は奮い立たせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

聖人な婚約者は、困っている女性達を側室にするようです。人助けは結構ですが、私は嫌なので婚約破棄してください

香木あかり
恋愛
私の婚約者であるフィリップ・シルゲンは、聖人と称されるほど優しく親切で慈悲深いお方です。 ある日、フィリップは五人の女性を引き連れてこう言いました。 「彼女達は、様々な理由で自分の家で暮らせなくなった娘達でね。落ち着くまで僕の家で居候しているんだ」 「でも、もうすぐ僕は君と結婚するだろう?だから、彼女達を正式に側室として迎え入れようと思うんだ。君にも伝えておこうと思ってね」 いくら聖人のように優しいからって、困っている女性を側室に置きまくるのは……どう考えてもおかしいでしょう? え?おかしいって思っているのは、私だけなのですか? 周囲の人が彼の行動を絶賛しても、私には受け入れられません。 何としても逃げ出さなくては。 入籍まであと一ヶ月。それまでに婚約破棄してみせましょう! ※ゆる設定、コメディ色強めです ※複数サイトで掲載中

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

たとえこの想いが届かなくても

白雲八鈴
恋愛
 恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。  王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。 *いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。 *主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

処理中です...