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風邪

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風邪をひいてしまったようだ。昨日の夜喉がおかしかったから薬を飲んで早く寝たけど間に合わなかったらしい。

熱を測ってみると39℃近い。

大人になってからお目にかかったことがない高熱にびっくりしてしまった。

会社に連絡をして休みをもらった。

働き者の私は有休を1日も消化していないので、どうにかなるだろう。



たぶん病院に行ったほうがいいと思うけれど、熱が高いせいかふらふらしている。

もう少し寝て熱を下げてから午後病院に行こうと決意して私は寝てしまった。



起きると外は真っ暗だった。

寝すぎたようだ。

熱を測ると38.5℃。

少し下がったけれどまだ高熱の部類。

すぐ治る風邪ではなさそうだ。

今日は木曜日。

日曜日にまた先輩と会う約束をしていた。

残念だけれど早めにキャンセルしておいたほうがいいかもしれない。



『日曜日のデート行けなくなってしまいました』

先輩にメッセージを送ると、再び寝た。

私は病気は寝れば治ると思っている節がある。

電話の着信を知らせる音で目が覚めた。

先輩からだった。



「ハイ」

「日曜日行けなくなったって、どうした?」

「風邪をひいてしまったみたいで。申し訳ありません」

私は喉からくる風邪をもらってしまったようで、声もカサカサのひどいものだった。

「病院行っただろうな?」

「行ってないです。行こうと思ったんですけど」

「熱は?」

「38.5℃」

「今から行く」



そう言って電話を切ると、先輩は本当に来た。

差し入れを買ってきてくれたようで重そうなスーパーの袋を持っている。

「座って」

と言って先輩は私をベッドに座らせた。

「症状は?」

「のどが痛くて声が出ないのと咳鼻水です。熱があります」

「いつから?」

「昨日の夜ちょっとおかしいなと思ってお薬飲んで寝たんですけど、今日の朝は熱が39℃くらいありました」

先輩は私に口を開けさせて喉を調べ、聴診器を取り出して私の胸に当てている。

なにこれ。お医者さんプレイ?

「実家寄って検査キットもらってきたから」

と言うと、先輩は私の鼻に細長い綿棒のようなものを突っ込んだ。


「ちゃんと食ってる?」

「何も食べてません」

「何が食べたい?」

「すりおろしリンゴ」

子供のころから風邪をひくとなぜかリンゴしか食べられなくなる。

元気な時はそれほどリンゴを食べないので自分でも不思議だ。

先輩は私を寝かせると、キッチンで何やら作業をしてすりおろしリンゴを持ってきてくれた。

「おいしぃ」

朝から何も食べずに寝続けていた。

優しい甘みとほのかな酸味のすりおろしリンゴがおいしくて、私は夢中で食べてしまった。

「インフルエンザが流行り始めてるから心配したけどインフルエンザ検査は陰性だった。だが熱も高いし症状がつらかったら明日病院に行って薬もらって来い」

「ハイ」

そうか、忘れてたけど先輩リアルお医者さんだった。

今は勤務医だけど実家は開業医だったはず。



「飲み物とレトルトのおかゆと果物買ってきたから。水分取ってちゃんと食え。そして寝ろ」

私を寝かせると先輩は帰っていった。

私は「ありがとうございます」と言うこともせずに先輩を見送ってしまったことに気づき、先輩の帰ってしまった部屋で「ありがとうございます」と言った。

ただただうれしくて胸がいっぱいだった。

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