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誤解

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「素敵な結婚式でしたねー」

本当に岸野先輩苦手だし、何話していいかわからなくて今日何度言ったかわからないセリフを繰り返した。

杉山先輩なんで結婚しちゃったんだろう。助けて。



「細井さー。俺のこと苦手でしょ」

うわわ。ご本人に伝わってた。

「そんなことないですよ」

こういう時、どう返すのが正解なの!?

「俺と目を合わせないし、俺と目が合うとすぐそらすし。最初は好かれてるのかなと思ったけど、そういう顔じゃなかったから気づいたよ。俺なんかした?露骨に目をそらされると傷つくんですけど」

えぇ?こっちは気を遣って目が合わないようにしてたんですけど!?

「なるべく先輩の視界に入らないようにしてただけですよ。先輩が不快な気分にならないよう気遣うのが後輩の役目ですからね」

うわぁ。
言ってて悲しくなるセリフだ。

「不快?」

「先輩私のこと嫌いじゃないですか。だからお見苦しいものを先輩の視界に入れないようにしてたんです。こっちだって気を遣ってるんですよ」

たぶん今のセリフは酔ってなかったら言えなかっただろうな。

今は酔っているからニコニコ笑って言えた。

酔ってなかったら、泣いていただろう。

「はぁ!?んなわけないだろ。なんでそんな勘違いしたんだ?俺なんか言った?」

「『デブは嫌い、無理』って言ってましたよ」

私はこの耳でバッチリ聞いたのだ。
1回じゃなくて何回も同じようなことを言っていた。

私の言葉を聞き、岸野先輩は気まずそうに顔を伏せた。

「まぁ言ったかもしれないけど、細井には関係ないだろ」

「私が今までの人生で何回“太いのにほそいひめ”って言われて笑われたと思ってるんですか?私はデブ。先輩はデブが嫌い。つまり先輩は私が嫌いです」

なぜ私はこんなに悲しいことを、三段論法を使って力説しなければならないのだろうか。


先輩はしばらく頭を抱えて考え込んでいた。



「杉山ってモテるだろ。顔が良くて誰にでも優しいから」

「はい」
ここを否定する者はいないだろう。

大学時代は高校の時よりモテていた。

サークルの飲み会なのに見たことない女の子がたくさん参加していた。

そのほとんどが杉山先輩狙いだ。


「で、あいつデブが好きって公言してただろ?」

そんな直接的な言葉で言ってなかったと思うけど、杉山先輩の話をちゃんと聞いてれば、この人ふくよかな人が好きかなと気づく。



「だからあいつの取り巻きの女の中には無理して太ろうとしてるのもいて、実際太めのやつはもっと太くなってた。だけど肥満は病気のリスクがぐっと上がるから、無理して肥満になろうとしてる女たち放っておけないと思ってきつめの言葉を言って現実に引き戻そうとしただけだ。全員が杉山と付き合えるわけないし。誰だって自分の好きな人にはなるべく病気で苦しんだりせず、いつまでも元気で幸せでいてほしいだろ。今のままが健康的なのに好きな男のために無理して太ろうするなんて馬鹿げてる。今思えば、だからと言ってデブは嫌いってのはさすがに言いすぎだったかもな。若気の至りってやつだ、許せ」

岸野先輩は、杉山先輩の言葉を真に受けて太ろうとする女の子たちを止めようとしていたということか。

それに岸野先輩は病気のリスクを考えてデブ嫌いと言っていたんだ。

「じゃあ、岸野先輩にとってのデブっていうとどのくらいですか?」

「一般的に肥満って言われているように、BMI25以上が一応の基準になるな」

今まで嫌われていると思っていたから岸野先輩のことは異性として見ていなかった。

でも、どうやら嫌われていないということが判明した今。

改めてみるとこの人、すごいイケメンじゃない?

髪型や化粧でごまかす必要のない整った顔。

大学の時からずっと同じ顔だから多分整形していない。

(私は整形も努力だとおもってるけど、整形しないでこの顔はけっこうすごいと思う)

たぶん素っぴんだろうけど、ひどい隈もなく健康そうな肌。

身長も高く、スーツを着ている今はスタイルもよく見える。

杉山先輩のような甘い王子様系ではなく、キリっとしているので真顔だとちょっと怖いけれど笑うと可愛い。



前に好きだった人には、本当に雑な扱いをされていた。

私は確かに彼のことが好きだったけれど、たまに冷静になったとき途方もない虚しさを感じることもあった。

でも岸野先輩は好きな人には健康で幸せでいてほしいらしい。

そんな風に考える男の人がいるなんて想像したこともなかった。

もしかしたら岸野先輩は天使かもしれない。

俺のことが好きなら働いてお金稼いで俺を支えてと言われ続けていた私にとっては目から鱗だ。

もし先輩に好きになってもらえたら幸せだろうなと思った。
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