上 下
1 / 24

鈴木

しおりを挟む
私の初恋は中学1年生の時だった。

小学校は1学年2クラスしかない小さな学校だったのに対して中学は1学年6クラス。

1から新しい友達を作る日々。

そんな中見つけたのが、同じクラスの鈴木君だった。

鈴木君はとにかくモテた。

いわゆる端正な顔立ちというやつで、田舎の中学にはなかなかいないタイプだった。

朝練を終えて教室に入ると、机が壁際に寄せられていて、教室の中央に鈴木君、その周りに椅子を持ち寄った女子が集まっているという状況が、気づいた時には当たり前になっていた。

10人以上の女子が椅子を持って集まっていたし、他のクラスの女子も鈴木君を見に来ていた。

学校でこんな光景を見たのは鈴木君が最初で最後だった。



私は部活の朝練が毎日あったため鈴木君の周りに侍ることはできなかったけれど、密かに彼にあこがれていた。



そんなある日のこと。

鈴木君はぽっちゃり系が好きという情報を手に入れた。

決して痩せていない私は歓喜した。

情報の正確性を確かめたくて、私は鈴木君に直接尋ねてみることにした。

「鈴木君って、ぽっちゃりな女の子が好きなの?」

私の質問に、クラス中の女の子の注目が集まっている。

彼女たちもやはり気になるのだろう。

学年全女子の知りたい質問と言っても過言ではなかった。

「ぽっちゃりしている女の子は可愛いと思う」

鈴木君は認めた。
情報は正確だったのだ。

「芸能人で言えば、例えばどんな人?」

そこで鈴木君があげたのは、モデルやアイドルなど、私の目から見てスタイルの良い人達ばかりだった。



「その人達ってぽっちゃりだったかな?スタイル良いと思ってた」

おそらく私と同じ感想を抱いただろう取り巻きの女の子が、代表して聞いてくれた。グッジョブ!

「みんなほっぺがぷくっとしてて可愛いよ」

鈴木君は答えた。

私は会話に混ざりながら混乱していた。

私の中のぽっちゃりの定義と鈴木君のぽっちゃりの定義は違っているようだ。



「鈴木君のぽっちゃりとデブの境界ってどのへん?」

今や鈴木君の周りにはたくさんの女の子が集まっている。

その中の1人が、核心をつく質問をした。

「う~ん。ほっぺとか二の腕がちょっとぷにぷにしてるのがぽっちゃりで、50キロ以上はデブだからぽっちゃりとは言わない。だから40キロ台でほっぺとか二の腕がぷにっとしてる子が好きかな。50キロ以上のデブはアウト」

“50キロ以上のデブはアウト”

私はその言葉にショックを受けた。

同時に私は鈴木に背負い投げを決め、倒れた鈴木の腹の上でジャンプをした。

鈴木をめったんめったんのぎったんぎったんにしてやった。

もちろん頭の中で。



鈴木は『50キロ以上はデブだからぽっちゃりとはいわない』と言う名言(迷言?)を残したままその数か月後に転校していった。



もし鈴木がそのまま中学に残っていて誰かと付き合っていたら、その彼女は少女漫画でよくあるいじめに遭うことができただろう。

間違いなく鈴木が、人生で遭遇した男子の中で一番のモテ男だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おっぱい、触らせてください

スケキヨ
恋愛
社畜生活に疲れきった弟の友達を励ますべく、自宅へと連れて帰った七海。転職祝いに「何が欲しい?」と聞くと、彼の口から出てきたのは―― 「……っぱい」 「え?」 「……おっぱい、触らせてください」 いやいや、なに言ってるの!? 冗談だよねー……と言いながらも、なんだかんだで年下の彼に絆されてイチャイチャする(だけ)のお話。

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

婚約破棄を突きつけに行ったら犬猿の仲の婚約者が私でオナニーしてた

Adria
恋愛
最近喧嘩ばかりな婚約者が、高級ホテルの入り口で見知らぬ女性と楽しそうに話して中に入っていった。それを見た私は彼との婚約を破棄して別れることを決意し、彼の家に乗り込む。でもそこで見たのは、切なそうに私の名前を呼びながらオナニーしている彼だった。 イラスト:樹史桜様

冷酷社長に甘く優しい糖分を。

氷萌
恋愛
センター街に位置する高層オフィスビル。 【リーベンビルズ】 そこは 一般庶民にはわからない 高級クラスの人々が生活する、まさに異世界。 リーベンビルズ経営:冷酷社長 【柴永 サクマ】‐Sakuma Shibanaga- 「やるなら文句・質問は受け付けない。  イヤなら今すぐ辞めろ」 × 社長アシスタント兼雑用 【木瀬 イトカ】-Itoka Kise- 「やります!黙ってやりますよ!  やりゃぁいいんでしょッ」 様々な出来事が起こる毎日に 飛び込んだ彼女に待ち受けるものは 夢か現実か…地獄なのか。

浮気発覚?旦那様のお部屋を抜き打ちチェックした結果

国湖奈津
恋愛
この話は以前投稿した、「深酒して起きたら、隣に男が寝ているようです」という話の続編です。 前作を見なくて大丈夫ですが、ネタバレしてます。 新婚生活を満喫している千織は、親友に助言され、年下の旦那様が独り暮らししているお部屋を抜き打ちチェックしてみることに。 すると、不穏な証拠物件が見つかり…?

私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。 そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。 真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。 彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。 自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。 じれながらも二人の恋が動き出す──。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

起業家幼馴染社長からの監禁溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
起業家幼馴染社長からの監禁溺愛

処理中です...