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 私はそれから考えた。
 仕事をしているとそうでもないけれど、家に帰ってがらんとした広い部屋に一人でいると、もう考えずにはいられなかった。

 私は、本当に亮君のことを好きになってしまって恋してしまっていた。
 まだ結婚して一年経っていないけれど、この家も亮君との思い出でいっぱいだ。

 証拠が亮君の浮気を物語っているけれど、その証拠の方がおかしいのではないかと思い始めてしまうほど、亮君を信じたい気持ちがある。

 亮君はあのあとも変わらず毎日夜11時頃に通話してくる。

 私はあれから2、3日くらいは亮君が好きとか愛してるとか会いたいとか抱きたいとか言うたびに、亮君の声や表情にいつもと違う部分があるんじゃないか、後ろめたく思っているところがあるんじゃないかと探ろうとしていた。

 けれど毎日言われて、いつもと変わらない亮君を見ている内に浮気なんてしてなくて、本当に亮君はそう思っているんじゃないかと思い始めてしまっていた。

 そう思いたい自分がいる。

 最初のうちは、亮君の匂いがするベッドで寝たくなくてソファーで寝ていた。

 でもそれでは疲れが取れず体も痛くなってしまったため、今ではベッドで亮君の枕を抱きしめながら寝てしまっている。
 そうするとなぜかよく眠れるのだ。

『そうやって騙され続けるのよ。集めた証拠を見れば、浮気の常習者ってわかるでしょ。アカデミー主演男優賞をもらえるレベルの演技力を持ってるのよ。もし亮君が浮気してないなら、どうしてあんなものが部屋にあったわけ?』

 頭の中で黒寄りの私が囁く。

『子供の頃からずっと私のことを好きでいてくれた亮君が、浮気なんてするわけないでしょ。この前集めた証拠の方が間違っているって可能性だってあるんじゃない?それに万が一浮気していたとしても、もう一度私のことを好きになってもらうように頑張ればいいんじゃない?』

 もう1人の白寄りの私はこう囁いてくる。



支倉はせくら先生はこういうのってどう思う?」

 私がうじうじしながら学校でお昼ご飯を食べていると、隣で食べていた星野先生が教科書を開いて尋ねてきた。

 ちなみに私は学校での名前を変えていないので学校での呼び名は支倉のままだ。

 渡されたのは、星野先生が担当する古文のテキストだった。
 伊勢物語の『筒井筒』が開かれていた。


『筒井筒』は、

 幼馴染同士で結婚したけれど、男は別の女の元に通ってしまう。
 幼馴染の女はそれを快く送り出す。

 その態度を怪しく思い、自分も浮気をする気かと男が陰から覗いていると、幼馴染の女はきれいに身支度をして男の身を案じていた。
 一方浮気相手の女は、自分でご飯をよそうという当時身分のある女性はしない行為をしたので男はその女に嫌気がさし、幼馴染の女のところに帰ってくるというような話だ。


 学生時代の私だったら、この幼馴染の女は都合のいい女かしら?と思っていたと思う。

 まぁそもそも一夫一婦制の現代と違って当時は一夫多妻制だし社会背景も違うから考え方も何もかも違うと思うけれど。

 でも、今の私は、「これだ!」と思った。

 私も綺麗にして待っていよう。
 でもさすがに待っているだけは性に合わない。

 私をもう一度好きになってもらえるように、どうにか頑張ってみよう。
 
 それに夫婦といえどもやっぱり恥じらいとか大切だよね、と気づいた。


 確かに最近の私には恥じらいが足りなかったような気がする。
『恥じらい』を忘れずに頑張ろうと決意した。
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