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「気付いていないのか? ならば、愚かだな……今日、お前について来た者達の素性を明かしておくとするか」
「ど、どういうことですか?」
「あれは、俺の手のものだ。試しに、助けを呼んでみればいい。誰も応えないはずだ」
「そんなことはありません。誰か、誰かいませんか?」

 オーガルン辺境伯の言葉に、レフーナは声をあげた。
 だが、その声には誰も応えない。宣言した通り、レフーナが連れて来た者達にはオーガルン辺境伯の手がかかっていたようだ。
 それに関しては、私も驚きである。いつの間に、そのような根回しをしていたのだろう。というか、どうやったのだろうか。

「貴族として、使える駒はたくさんある。お前は、そのようなことも知らないのだろう?」
「そ、それは……」
「暗殺という言葉を知っているか? 貴族の世界では、いくらでもそういった事柄がある。俺が一言命じれば、お前を殺すことなど造作もない」
「……こ、侯爵家の力を舐めているのですか?」
「そうではない。なぜなら、それはお前の力ではないからだ。父親と母親の庇護下にいるお前には、わからないだろうな……」

 レフーナは、オーガルン辺境伯に噛みつき始めた。流石に彼女も、彼の殺気に耐性ができたのだろうか。単なる虚勢という可能性もあるが。

「お父様とお母様の力が私の力です。私を敵に回すということは、侯爵家を敵に回すのと同じこと……」
「そう思うか? ならば、それでもいいだろう。とことんやろう」
「……え?」
「アーケンド侯爵家と正面からやり合うのも楽しそうだ。血が滾る」
「なっ……」

 レフーナの表情は、再び恐怖に変わった。
 楽しそうに笑うオーガルン辺境伯に、今までとは違う恐怖を覚えたのだろう。
 オーガルン辺境伯は、本当に楽しそうにしている。それは、本心で言っているのだろうか。事情を知っている私ですら、そう思うような笑顔だった。

「怖気づいたのか?」
「それは……」
「ふん、その程度の器ということか……ならば、帰れ。今なら、まだ許してやる」
「……」
「安心しろ、無粋な真似はしない。お前が大人しく帰るならな……だが忘れるな、お前の命は俺の手の中にある」
「ひっ……」

 オーガルン辺境伯の言葉に、レフーナは立ち上がった。
 恐怖の表情を浮かべながら、彼女は歩いていく。言われた通り、帰るつもりなのだろう。
 こうして、レフーナはオーガルン辺境伯の屋敷から去って行くのだった。
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