上 下
25 / 26

25.

しおりを挟む
「気付いていないのか? ならば、愚かだな……今日、お前について来た者達の素性を明かしておくとするか」
「ど、どういうことですか?」
「あれは、俺の手のものだ。試しに、助けを呼んでみればいい。誰も応えないはずだ」
「そんなことはありません。誰か、誰かいませんか?」

 オーガルン辺境伯の言葉に、レフーナは声をあげた。
 だが、その声には誰も応えない。宣言した通り、レフーナが連れて来た者達にはオーガルン辺境伯の手がかかっていたようだ。
 それに関しては、私も驚きである。いつの間に、そのような根回しをしていたのだろう。というか、どうやったのだろうか。

「貴族として、使える駒はたくさんある。お前は、そのようなことも知らないのだろう?」
「そ、それは……」
「暗殺という言葉を知っているか? 貴族の世界では、いくらでもそういった事柄がある。俺が一言命じれば、お前を殺すことなど造作もない」
「……こ、侯爵家の力を舐めているのですか?」
「そうではない。なぜなら、それはお前の力ではないからだ。父親と母親の庇護下にいるお前には、わからないだろうな……」

 レフーナは、オーガルン辺境伯に噛みつき始めた。流石に彼女も、彼の殺気に耐性ができたのだろうか。単なる虚勢という可能性もあるが。

「お父様とお母様の力が私の力です。私を敵に回すということは、侯爵家を敵に回すのと同じこと……」
「そう思うか? ならば、それでもいいだろう。とことんやろう」
「……え?」
「アーケンド侯爵家と正面からやり合うのも楽しそうだ。血が滾る」
「なっ……」

 レフーナの表情は、再び恐怖に変わった。
 楽しそうに笑うオーガルン辺境伯に、今までとは違う恐怖を覚えたのだろう。
 オーガルン辺境伯は、本当に楽しそうにしている。それは、本心で言っているのだろうか。事情を知っている私ですら、そう思うような笑顔だった。

「怖気づいたのか?」
「それは……」
「ふん、その程度の器ということか……ならば、帰れ。今なら、まだ許してやる」
「……」
「安心しろ、無粋な真似はしない。お前が大人しく帰るならな……だが忘れるな、お前の命は俺の手の中にある」
「ひっ……」

 オーガルン辺境伯の言葉に、レフーナは立ち上がった。
 恐怖の表情を浮かべながら、彼女は歩いていく。言われた通り、帰るつもりなのだろう。
 こうして、レフーナはオーガルン辺境伯の屋敷から去って行くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仕事ができないと王宮を追放されましたが、実は豊穣の加護で王国の財政を回していた私。王国の破滅が残念でなりません

新野乃花(大舟)
恋愛
ミリアは王国の財政を一任されていたものの、国王の無茶な要求を叶えられないことを理由に無能の烙印を押され、挙句王宮を追放されてしまう。…しかし、彼女は豊穣の加護を有しており、その力でかろうじて王国は財政的破綻を免れていた。…しかし彼女が王宮を去った今、ついに王国崩壊の時が着々と訪れつつあった…。 ※カクヨムにも投稿しています! ※アルファポリスには以前、短いSSとして投稿していたものです!

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

第一王子様は妹の事しか見えていないようなので、婚約破棄でも構いませんよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
ルメル第一王子は貴族令嬢のサテラとの婚約を果たしていたが、彼は自身の妹であるシンシアの事を盲目的に溺愛していた。それゆえに、シンシアがサテラからいじめられたという話をでっちあげてはルメルに泣きつき、ルメルはサテラの事を叱責するという日々が続いていた。そんなある日、ついにルメルはサテラの事を婚約破棄の上で追放することを決意する。それが自分の王国を崩壊させる第一歩になるとも知らず…。

婚約破棄されたはずなのに、元婚約者が溺愛してくるのですが

ルイス
恋愛
「シルヴィア、私が好きなのは幼馴染のライナだ! お前とは婚約破棄をする!」 「そんな! アルヴィド様、酷過ぎます……!」 伯爵令嬢のシルヴィアは、侯爵のアルヴィドに一方的に婚約破棄をされてしまった。 一生を仕える心構えを一蹴されたシルヴィアは、精神的に大きなダメージを負ってしまった。 しかし、時が流れたある日、アルヴィドは180度態度を変え、シルヴィアを溺愛し再び婚約をして欲しいと言ってくるのだった。 シルヴィアはその時、侯爵以上の権力を持つ辺境伯のバルクと良い関係になっていた。今更もう遅いと、彼女の示した行動は……。

お姉様に押し付けられて代わりに聖女の仕事をする事になりました

花見 有
恋愛
聖女である姉へレーナは毎日祈りを捧げる聖女の仕事に飽きて失踪してしまった。置き手紙には妹のアメリアが代わりに祈るように書いてある。アメリアは仕方なく聖女の仕事をする事になった。

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

魔力ゼロ聖女

桜井正宗
恋愛
婚約破棄され捨てられたエレナは魔力ゼロの聖女。 運命の相手がいないと魔力を維持できない聖女。 帝領伯エリックに捨てられたエレナは絶望する。 妹のドロテアに全てを奪われたからだ。 暴漢に襲われそうになると騎士クラウス(辺境伯)が助けてくれた。 魔力の為ではなく、幸せの為にクラウスと一つになりたいと思うようになった。

処理中です...