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「さて、ここが目的地です」
「ああ、ここが例の服屋さんなんですね?」
「ええ、この辺りでは一番評判のいい店です。まあ、とりあえず入りましょう」
「はい」

 話している内に、私達は目的地まで辿り着いていた。
 そこは、オーガルン辺境伯も利用している服屋さんであるらしい。
 辺境伯である彼が利用しているというなら、それなりにいい店なのだろう。外装も内装も、それ程豪華という訳ではないが。

「ご主人、いらっしゃるか?」
「はい……おや、これはオーガルン様」

 オーガルン辺境伯の呼びかけに、店の奥から初老の男性が現れた。いかにも人が良さそうな男性だ。この男性が、この店の主人なのだろう。
 領主が現れたからか、店の主人は少し背筋を伸ばす。当然のことではあるが、それなりに緊張しているようだ。

「本日は、どのようなご用件で?」
「ああ、こちらの女性に見合う服を繕えてもらいたいのだ」
「……もしかして、こちらがオーガルン様の婚約者様ですか?」
「その通りだ」

 オーガルン辺境伯は、私のことを短く説明した。
 私と接する時は丁寧な口調であったが、流石に平民と話す時は砕けた口調になるようだ。
 大柄な彼にその口調は似合っている。そんなことを考えながら、私はご主人に挨拶をするべきであることに思い至った。

「私は、ラナフィリア・アーケンドと申します」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。私は、ブロッカスと申します。この町でしがない服屋を営んでおります」

 初老の男性、ブロッカスさんは私に深く頭を下げてきた。
 その物腰は、とても穏やかである。本当にいい人なのだろう。それは、なんとなく伝わってくる。
 とはいえ、あまり私やオーガルン辺境伯といった高貴な人達と接し慣れているといった感じではない。どちらかというと、庶民に愛されていそうな服屋さんだ。

「謙遜していますが、彼は非常に優れた服屋です。少なくとも、私が知っている中では一番といえるでしょう」
「お褒め頂き、光栄です。しかし、私は本来なら貴族の方々に服を作るような立場ではございません」
「ふむ、そう考えると少々もう訳ないことをしているように思えるな」
「あ、いえ、そんなことは……」
「そうかしこまらないでくれ。単純に、俺があなたを気に入っているというだけなのだ。他意がある訳ではない」

 オーガルン辺境伯の一挙一動に、ブロッカスは反応している。無礼があってはならない。そういった気持ちなのだろう。
 その反応から察するに、やはり彼は基本的には庶民の服屋さんなのだろう。その腕が、辺境伯に認められる程であるというだけで。

「ふむ、まあ様々な事柄に関しては後で考えるとしよう。それよりも、今は彼女の服の方が大切だ」
「は、はい……それでは、そのようにいたしましょう」

 オーガルン辺境伯の言葉に、ブロッカスさんは大きく頷いた。
 こうして、私は服を仕立ててもらうことになったのである。
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