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「……おっと、よく考えてみれば失礼でしたね。どうぞ、お座りください」
「あ、失礼します」
オーガルン辺境伯に勧められて、私はソファに腰掛けた。
すると、彼もその対面に座る。座っていても、やはり体が大きい。ただ、彼の人間性がわかったからか、先程までよりは迫力は薄れているような気がする。
「さて、質問させてもらいたいのですが、この屋敷に来た時に、あなたはどのような違和感を覚えたのですか?」
「空気感が柔らかだったのです」
「空気感?」
「主が冷血な人間であるというなら、屋敷の空気感は張り詰めるはずです。余裕が生まれないと表現すると、この屋敷の使用人の方々に失礼かもしれませんが……心のゆとり、温もり、あまりいい表現は思いつきませんね」
「……なるほど」
私の言葉に、オーガルン辺境伯はゆっくりと頷いてくれた。
曖昧な表現ではあるが、彼にとってそれは納得できる理論だったようだ。
「そういった空気感というものが、あるものなのですか?」
「ええ、間違いなくあります。あまりこういったことを言うべきではないかもしれませんが、少なくともアーケンド侯爵家の空気感は張り詰めていましたから」
「うむ……」
身内の恥を語るのはあまりよくないような気もしたが、私はアーケンド侯爵家の内情を少しだけ明かすことにした。
そもそもの話、この婚約に関してはオーガルン辺境伯も色々と疑問を覚えているはずである。そのため、この辺りを明かしても問題はないだろう。
「差し支えなければ、その辺りのことも教えていただきたい。ただ、その前に私の話をしておくべきでしょう」
「オーガルン辺境伯の話ですか?」
「私が冷血と呼ばれている理由……いや、理由というには仰々しい過ぎるものですね。そこに関しては、悪意が含まれた噂であるとしか言いようがない」
一瞬だけ、オーガルン辺境伯の表情が強張った。
そこに混ざっているのは怒り、いや憤りのような感情に思える。
その辺りに関しても、人間らしい変化といえるだろう。悪意ある噂に思う所があるが、私の前なので抑え込んだ。冷血な人間なら、そんなことはしないだろう。
「とはいえ、私も戦士の端くれ。冷血という評価に関して、反論できない部分もあります」
「戦士として、敵には容赦しないということでしょうか?」
「その認識で間違っていません。私は、戦地において容赦や情けを持つつもりはありません。そのような迷いは、自らの命、引いては私が守るべき全ての者達の命を危険に晒すことに他ならないからです」
オーガルン辺境伯は、淡々とそう語った。
鋭いその視線は、戦士としての目なのだろう。薄れていた迫力が戻って来たように思える。正直少し怖い。
「理解することができました。それでは、こちらの話をしましょう。恐らく、オーガルン辺境伯も色々と違和感を覚えているとは思いますが」
「……聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「はい……あなたになら、話してもいいとそう思いましたから」
私は、オーガルン辺境伯にアーケンド侯爵家で起こったことについて語ることにした。
彼になら、そのことを語っても問題はないだろう。少ないやり取りではあったが、今までの会話で私はそう判断したのだ。
「あ、失礼します」
オーガルン辺境伯に勧められて、私はソファに腰掛けた。
すると、彼もその対面に座る。座っていても、やはり体が大きい。ただ、彼の人間性がわかったからか、先程までよりは迫力は薄れているような気がする。
「さて、質問させてもらいたいのですが、この屋敷に来た時に、あなたはどのような違和感を覚えたのですか?」
「空気感が柔らかだったのです」
「空気感?」
「主が冷血な人間であるというなら、屋敷の空気感は張り詰めるはずです。余裕が生まれないと表現すると、この屋敷の使用人の方々に失礼かもしれませんが……心のゆとり、温もり、あまりいい表現は思いつきませんね」
「……なるほど」
私の言葉に、オーガルン辺境伯はゆっくりと頷いてくれた。
曖昧な表現ではあるが、彼にとってそれは納得できる理論だったようだ。
「そういった空気感というものが、あるものなのですか?」
「ええ、間違いなくあります。あまりこういったことを言うべきではないかもしれませんが、少なくともアーケンド侯爵家の空気感は張り詰めていましたから」
「うむ……」
身内の恥を語るのはあまりよくないような気もしたが、私はアーケンド侯爵家の内情を少しだけ明かすことにした。
そもそもの話、この婚約に関してはオーガルン辺境伯も色々と疑問を覚えているはずである。そのため、この辺りを明かしても問題はないだろう。
「差し支えなければ、その辺りのことも教えていただきたい。ただ、その前に私の話をしておくべきでしょう」
「オーガルン辺境伯の話ですか?」
「私が冷血と呼ばれている理由……いや、理由というには仰々しい過ぎるものですね。そこに関しては、悪意が含まれた噂であるとしか言いようがない」
一瞬だけ、オーガルン辺境伯の表情が強張った。
そこに混ざっているのは怒り、いや憤りのような感情に思える。
その辺りに関しても、人間らしい変化といえるだろう。悪意ある噂に思う所があるが、私の前なので抑え込んだ。冷血な人間なら、そんなことはしないだろう。
「とはいえ、私も戦士の端くれ。冷血という評価に関して、反論できない部分もあります」
「戦士として、敵には容赦しないということでしょうか?」
「その認識で間違っていません。私は、戦地において容赦や情けを持つつもりはありません。そのような迷いは、自らの命、引いては私が守るべき全ての者達の命を危険に晒すことに他ならないからです」
オーガルン辺境伯は、淡々とそう語った。
鋭いその視線は、戦士としての目なのだろう。薄れていた迫力が戻って来たように思える。正直少し怖い。
「理解することができました。それでは、こちらの話をしましょう。恐らく、オーガルン辺境伯も色々と違和感を覚えているとは思いますが」
「……聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「はい……あなたになら、話してもいいとそう思いましたから」
私は、オーガルン辺境伯にアーケンド侯爵家で起こったことについて語ることにした。
彼になら、そのことを語っても問題はないだろう。少ないやり取りではあったが、今までの会話で私はそう判断したのだ。
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