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『お姉様に相応しい婚約相手を、私が選んで差し上げました』

 馬車に揺られながら、私はレフーナの言葉を思い出していた。
 彼女の高慢なる態度を注意したため、私はレフーナと完全に敵対することになった。
 その結果、私はガルランド・オーガルン辺境伯の元に嫁ぐことになったのである。

『オーガルン辺境伯のことは、ご存知でしょうか?』
『……さあ、あまりよく聞いたことはないわね』
『あら、お姉様は意外と無知なのですね』

 オーガルン辺境伯のことを、私はあまり知らなかった。
 正直な所、私にとって最も大変だったのは自分の周りのことだった。そのため、他の貴族の情報まで気に掛ける余裕なんてなかったのである。
 ただ、それでも少しくらいは聞いたことがあった。オーガルン辺境伯の悪い噂を。

『彼は、冷血な辺境伯として有名な方なんです』
『冷血……』
『血も涙もない……冷酷、他にも色々と表現することができますね。お姉様は、どのような表現がお気に入りでしょうか?』

 冷血な辺境伯、それがガルランド・オーガルンという人間の評判だ。
 詳しいことは知らないが、彼はあまり褒められた人間ではないそうである。
 だからこそ、レフーナは私をオーガルン辺境伯の元に嫁がせることにしたのだろう。私がその人の元で、過酷な生活を送るようにと。

「……結局、そこも人任せでしかない訳だけれど」

 レフーナは、私の運命をオーガルン辺境伯に委ねることにした。それは要するに、他力本願でしかないということである。
 オーガルン辺境伯が仮に噂通りの人間であっても、私がどのような扱いを受けるかなんて、わかる訳ではないはずだ。
 それなのに、彼女はこれを私への報復としている。そういう所にまで、彼女の情けなさが現れているような気がする。
 とはいえ、オーガルン辺境伯の噂は本当にいいものではない。私が辛い生活を送ることは、事実なのかもしれないが。

『お父様もお母様も、大いに賛成してくださいました。まあ、私が進言したのですから、それは当然のことかもしれませんが』
『そうね……』
『……余裕そうですね? うふふっ、いつまでそんな態度でいられるか見物ですね?』
『それは、こちらの台詞よ。あなたは、いつまでそんな風でいられるのかしら?』
『なっ……!』

 私は、自分が取った行動に対して後悔はしていない。
 結果として、このようにことになってしまったが、あそこで何も言わなければ、私はこんなに晴れやかな気分ではいられなかっただろう。
 これからどうなるかは、正直さっぱりわからない。だが、それでも私が取った選択は間違っていなかったとそう思っている。
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