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12.国の王子達
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「おっと、自己紹介しなければなりませんね。僕の名前はセルーグと言います」
「あ、はい」
「といっても、知っていますよね。これでも王子なのですから」
じゃれ合っているカルードお義兄様とザベルス殿下を余所に、セルーグ殿下は私に自己紹介をしてくれた。
私と同い年くらいの彼は、なんとも穏やかな人物だ。雰囲気からはその優しさというものが伝わって来るような気がする。
「おいおいセルーグ、順番というものがあるだろう。兄上達を差し置いて自己紹介するなんて、お前らしくもないな」
「すみません、スヴェルツ兄様」
「まあ、俺は別に構わないがな」
そんなセルーグ殿下に言葉をかけたのは、第三王子であるスヴェルツ殿下であった。
彼の評判も、やはり聞いたことがある。なんでも紳士的で真面目な人物であるそうだ。だからこそ、兄弟の序列というものに拘っているのだろうか。
「というよりも、こういう時には兄上達が最後の方が良いのかもしれないな。メインはあくまでも兄上達だと考えられる。という訳でイルネシア嬢、俺の名前はスヴェルツ。この国の第三王子だ。端的に言って、偉い人だ」
「え? あ、はい」
スヴェルツ殿下について考えていた私は、彼の急な自己紹介に混乱した。
なんというか、噂されていたような人物とは思えないような発言をしている。というか、最後の発言に関しては、ちょっと短絡的過ぎではないだろうか。
「イルネシア嬢は、婚約者を探しているらしいな。そういうことなら、この俺が婚約者になるとしよう」
「え?」
「……おい、ふざけるなよ」
スヴェルツ殿下のさらなる言葉に、私は固まることになった。
そして次の瞬間、私の前にカルードお義兄様が現れていた。私からは後ろ姿しか見えないが、その背中からは怒りが伝わって来る。
「スヴェルツ、イルネシアをお前なんかと婚約させる訳がないだろう」
「おいおい、カルード、お前はイルネシア嬢の婚約者を探しに来たんじゃないのか?」
「それはそもそも、あくまでもクレリナの提案に過ぎない。そして、彼に俺がイルネシアの婚約者を探しに来ていたとしても、お前なんかを認める訳がないだろう」
カルードお義兄様は、スヴェルツ殿下にとても辛辣であった。
それに私が驚いていると、隣にクレリナ嬢が首を振った。セルーグ殿下もなんだか微妙な表情をしているし、これはこの二人の仲も悪いということだろうか。
「イルネシアお姉様、スヴェルツ兄様はですね。端的に言ってしまえば、女性関係にだらしない人なんです」
「……え?」
「まあ、婚約者としてはナシですね。悪い人ではないですけれど、結婚しても絶対に浮気しますから」
「そ、そうですか……」
クレリナ嬢の言葉に、私は息を呑んだ。
どうやらスヴェルツ殿下は、評判通りの人という訳ではないらしい。意外と国民や私などの貴族に知られていないことを考えると、隠すのが上手いということなのだろうか。
いや、周囲が抑え込んでいたということかもしれない。私は、その場にいるスヴェルツ殿下に向けられている鋭い視線に、そんなことを思うのだった。
「あ、はい」
「といっても、知っていますよね。これでも王子なのですから」
じゃれ合っているカルードお義兄様とザベルス殿下を余所に、セルーグ殿下は私に自己紹介をしてくれた。
私と同い年くらいの彼は、なんとも穏やかな人物だ。雰囲気からはその優しさというものが伝わって来るような気がする。
「おいおいセルーグ、順番というものがあるだろう。兄上達を差し置いて自己紹介するなんて、お前らしくもないな」
「すみません、スヴェルツ兄様」
「まあ、俺は別に構わないがな」
そんなセルーグ殿下に言葉をかけたのは、第三王子であるスヴェルツ殿下であった。
彼の評判も、やはり聞いたことがある。なんでも紳士的で真面目な人物であるそうだ。だからこそ、兄弟の序列というものに拘っているのだろうか。
「というよりも、こういう時には兄上達が最後の方が良いのかもしれないな。メインはあくまでも兄上達だと考えられる。という訳でイルネシア嬢、俺の名前はスヴェルツ。この国の第三王子だ。端的に言って、偉い人だ」
「え? あ、はい」
スヴェルツ殿下について考えていた私は、彼の急な自己紹介に混乱した。
なんというか、噂されていたような人物とは思えないような発言をしている。というか、最後の発言に関しては、ちょっと短絡的過ぎではないだろうか。
「イルネシア嬢は、婚約者を探しているらしいな。そういうことなら、この俺が婚約者になるとしよう」
「え?」
「……おい、ふざけるなよ」
スヴェルツ殿下のさらなる言葉に、私は固まることになった。
そして次の瞬間、私の前にカルードお義兄様が現れていた。私からは後ろ姿しか見えないが、その背中からは怒りが伝わって来る。
「スヴェルツ、イルネシアをお前なんかと婚約させる訳がないだろう」
「おいおい、カルード、お前はイルネシア嬢の婚約者を探しに来たんじゃないのか?」
「それはそもそも、あくまでもクレリナの提案に過ぎない。そして、彼に俺がイルネシアの婚約者を探しに来ていたとしても、お前なんかを認める訳がないだろう」
カルードお義兄様は、スヴェルツ殿下にとても辛辣であった。
それに私が驚いていると、隣にクレリナ嬢が首を振った。セルーグ殿下もなんだか微妙な表情をしているし、これはこの二人の仲も悪いということだろうか。
「イルネシアお姉様、スヴェルツ兄様はですね。端的に言ってしまえば、女性関係にだらしない人なんです」
「……え?」
「まあ、婚約者としてはナシですね。悪い人ではないですけれど、結婚しても絶対に浮気しますから」
「そ、そうですか……」
クレリナ嬢の言葉に、私は息を呑んだ。
どうやらスヴェルツ殿下は、評判通りの人という訳ではないらしい。意外と国民や私などの貴族に知られていないことを考えると、隠すのが上手いということなのだろうか。
いや、周囲が抑え込んでいたということかもしれない。私は、その場にいるスヴェルツ殿下に向けられている鋭い視線に、そんなことを思うのだった。
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