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5.突然の訪問者

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 ウェーデル伯爵家の現在の領主というものは、暫定的にコークス公爵ということになっている。
 将来的には私の夫になる人がそれを引き継ぐことになるのだが、今はコークス公爵家の管理下にあるのだ。
 その領地の管理を主に行っているのは、カルードお義兄様である。彼は今ウェーデル伯爵家の屋敷で暮らして、私への指導なども含めて執務を行ってくれているのだ。

「……何故、お前がここにいる?」
「いたら悪いんですか?」

 という訳で私は、カルードお義兄様とともにウェーデル伯爵家の屋敷に帰って来た。
 そんな私達を待ち受けていたのは、カルードお義兄様の妹でコークス公爵家の長女であるクレリナ嬢だ。
 彼女は別に、ウェーデル伯爵家の屋敷で暮らしてはいない。私よりも年下の彼女は、コークス公爵家の屋敷で一人前の令嬢となるべく努力していると聞いているのだが、一体どうしたのだろうか。

「クレリナ嬢、お久し振りですね」
「イルネシアお義姉様、お久し振りです。あ、もっと気軽な感じで構いませんよ。私の方が年下である訳ですからね」
「あ、はい」

 クレリナ嬢という令嬢は、私のことも姉と呼び気に掛けてくれている。顔を合わせる度に、もっと気軽に接してくれて良いと、言ってくれるくらいだ。
 とはいえ、彼女は私よりも高位の公爵家の令嬢である。その辺りは弁えた方が良いと思っているため、その申し出を受け入れてはいない。そもそも社交辞令なのかもしれないし。

「挨拶するのはもちろん結構なことではあるが、ここにいる理由を聞かせてもらおうか、クレリナ」
「遊びに来たというだけですよ。そんなにピリピリとすることはないじゃありませんか、お兄様」
「来るなら来ると、事前に連絡を入れるのが礼儀というものだろう」
「サプライズって、良い響きだとは思いませんか?」
「こちらにも準備があるということを考えろ」

 クレリナ嬢に対して、カルードお義兄様は鋭い視線を向けていた。
 事前に連絡もなく訪問するというのは、確かに無礼なことだといえる。とはいえ、カルードお義兄様の理論を借りれば、私達は身内だ。多少は許しても、良いものではないだろうか。

「まあまあ、可愛い妹のちょっとした戯れではありませんか」

 とはいえ、クレリナ嬢のように開き直っているのは良くないことかもしれない。特にカルードお義兄様は厳しい所もあるため、今の発言はまずい気がする。

「戯れか。なるほど、それなら俺も戯れるとしようか」
「え? それは、どういうことですか?」
「この屋敷に来たからといって、勉学がおろそかになってはならない。俺が直々に課題を与えてやるとしよう」
「いや、ちょっと待ってください。それはあんまりじゃありませんか」

 カルードお義兄様の言葉に、クレリナ嬢はひどく動揺しているようだった。
 ただこれに関しては、仕方ないことだといえる。勉学が大切であることは間違いない訳だし、私は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
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