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4.大恩ある人達

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「……父上も随分と下らない婚約者を選んだものだ」
「えっと……」

 マジェンド伯爵家の屋敷の廊下を歩きながら、カルードお義兄様は呟いた。
 その呟きは、コークス公爵を批判するものである。それに私は、同意することはできない。大恩ある公爵のことを批判することは、できればしたくないからだ。
 とはいえ、恩という意味ではカルードお義兄様にも多大にある。故に私の返答というものは、非常に曖昧なものとなってしまった。

「人を見る目がないという訳でもないだろうに、父上というのは時折詰めが甘いといえる」
「コ、コークス公爵はお優しい方ですから……」

 お義兄様の言葉に、私はとりあえず頷いた。
 コークス公爵という人は、大変に優しい方である。それは考え方によっては、甘さといえることなのかもしれない。
 しかし私は、そんな優しさに救われてきた。カルードお義兄様も含めて、私が今ここにいられるのはコークス公爵家の人々のお陰だといえる。

「それにしても、どうしてカルードお義兄様がこちらに?」
「お前のことが心配だったからだ」

 話題を変えるためにも、私はお義兄様に質問を投げかけてみた。
 すると、とても単純明快な答えが返って来る。私のことが心配だった。だからここに来てくれた。それは私にとっては、とてもありがたいことだ。
 ただなんというか、そこまでしてもらうのは申し訳ないような気がしてしまう。コークス公爵家の次期当主であるお義兄様にわざわざ出払ってもらうなんて、なんとも贅沢な話だ。

「言っておくが、申し訳ないなどと思う必要はない。コークス公爵家には、ウェーデル伯爵家を助ける義務というものがある。それはお前の姉アルリシアとの契約だ。そして彼女が俺と結婚したことによって、ウェーデル伯爵家はコークス公爵家にとっては身内となった。手を差し伸べるのは当然のことだ。ウェーデル伯爵家の存在によって、利益も得ていることだしな」
「ありがとうございます、カルードお義兄様」

 カルードお義兄様は色々と言っているが、ここに来てくれたのは結局の所、優しさからであるだろう。
 コークス公爵の優しさというものを、お義兄様は引き継いでいるのだ。私はそれをとてもよく知っている。今までもその優しさに、救われてきた。

「礼などというものも必要はない。俺は当然のことをしているまでだ」
「それでも私は、お義兄様の優しさというものに感謝したいと思っています」
「……そういうことなら、好きにするが良い」

 私の言葉に、カルードお義兄様は少しぶっきら棒に答えてくれた。
 お義兄様は、少し素直ではない所がある。それを改めて実感しながら、私は帰路につくのだった。
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