博愛主義と言えば聞こえはいいですが、あなたのはただの浮気性です。

木山楽斗

文字の大きさ
上 下
16 / 16

16.手を取り合って

しおりを挟む
 最終的に、私はジグルド様と離婚したもののマルディード伯爵家に残ることになった。それは私とエルクドさんが結婚することになったからだ。

「本当に良かったのですか? 俺なんかと結婚するなんて……」
「ええ、エルクドさんは好感が持てる方ですからね。あなたと結婚することに対して、嫌だという気持ちはありませんよ」

 私としては、エルクドさんとの婚約はちっとも嫌ではなかった。
 彼は尊敬できる志を持っている人である。そんな彼を支えられるというのは、個人的には嬉しいことだ。

「それに、これはラマンダ伯爵家にとっても有益な結婚ですから」
「有益、そういうものなのですか?」
「ええ、マルディード伯爵家の実権を実質的に手に入れていますからね。お父様にとっては、万々歳でしょう。まあ、それなりに苦労もあるとは思いますが」

 貴族として右も左もわからないエルクドさんは、私のお父様の指導によって動いている。彼にとって、マルディード伯爵は信用に値しない人であるらしく、そうなったのだ。
 それによって、お父様は実質的にマルディード伯爵家を手に入れた。お父様にとって、それは嬉しい誤算だったといえるかもしれない。

「というかそれを言うなら、エルクドさんの方は良かったのですか? 私が結婚相手で」
「それに関しては、まったく問題ありません。俺はアルリナさんのことを心から尊敬していますからね。あなた程に素敵な女性はいないとさえ思っています」
「そ、そうですか……」

 軽い気持ちでした質問に対して、エルクドさんはとても真摯な言葉を返してくれた。
 彼からそう言ってもらえるのは、ありがたい限りではある。ただ、褒め過ぎのような気もするのだが。

「正直な所、兄ジグルドの行いは信じられませんね。あなたのような女性が妻であるというのに、浮気するなんて……」
「まあ、その辺りは本人の性質なのでしょうね。そのせいでひどい報いを受けた訳ですが……」
「結局彼は元に戻るのでしょうかね?」
「どうでしょうか? マルディード伯爵夫妻が頑張っていますが、こればかりはわかりませんからね……」

 色々とあったジグルド様は、現在別荘で両親とともに療養中である。
 彼の壊れてしまった心が戻るのかどうかはわからない。ある日突然戻るかもしれないし、一生戻らないかもしれない。ただどちらにせよ、マルディード夫妻は彼の傍にいるだろう。

「まあ、ジグルド様がどうなるかに関わらず、私達は私達の役目を果たしていかなければなりません。色々とありましたからね。領地の民も不安でしょうし、しっかりしていかないと」
「それについては、肝に銘じておきます。俺はただでさえ、頼りないと思われる立場である訳ですからね」
「エルクドさんなら、きっと悪評も覆せると思いますよ……いいえ、二人で覆していきましょう」
「……本当に、アルリナさんの存在は心強い限りです」

 私とエルクドさんは、これからも色々と大変だ。マルディード伯爵家の領地の人々が、安心して暮らせるように頑張っていかなければならない。
 それに、ジグルド様の子供のこともある。様々な面において、懸念はあるのだ。
 しかしそれでも、頑張っていくしかない。よりよい未来のために、私達は手を取り合って生きていくのだ。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

Vitch
2024.01.24 Vitch

遺産の分け前を増やすために、弟を暗殺しようとしたか?博愛主義者よ?

木山楽斗
2024.01.24 木山楽斗

感想ありがとうございます。
それについては、今後の展開にご期待ください。

解除

あなたにおすすめの小説

もうあなた様の事は選びませんので

新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト男爵はエリクシアに対して思いを告げ、二人は婚約関係となった。しかし、ロベルトはその後幼馴染であるルアラの事ばかりを気にかけるようになり、エリクシアの事を放っておいてしまう。その後ルアラにたぶらかされる形でロベルトはエリクシアに婚約破棄を告げ、そのまま追放してしまう。…しかしそれから間もなくして、ロベルトはエリクシアに対して一通の手紙を送る。そこには、頼むから自分と復縁してほしい旨の言葉が記載されており…。

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました

紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。 ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。 ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。 貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。