上 下
15 / 16

15.彼が受けた報い

しおりを挟む
「これは……」
「ま、まさか……」

 私とエルクドさんは、顔を見合わせていた。
 目の前の光景は、それ程までに驚くべきものだったのだ。

「もうわかっているとは思うが、あそこにいるのがジグルドだ」
「な、なんて……」
「ひどい有様ですね……」

 ジグルド様は、部屋の中央にあるベッドで包帯を全身に巻き、虚ろな目をしている。
 それはどう考えても、まともな状態ではない。心身ともに、ボロボロといった感じだ。
 ただ、どうして彼がそんなことになっているのかがわからない。一体何があったというのだろうか。

「マルディード伯爵、一体何があったのですか? ここまでひどい状況になるなんて、中々ないことだと思いますが……」
「暴行を受けたのだ。雇っていたチンピラ連中にね」
「暴行……お金を渋ったりしたのですか?」

 マルディード伯爵の言葉に、私は納得していた。
 あの柄の悪い連中は、どう考えたってまともではない。例え相手が伯爵令息であっても、気に入らないことがあったら報復するだろう。
 その被害を受けたというなら、この状態もおかしくはない。それ所か、しっくりくるくらいだ。

「金銭については、これもきちんとしていた。これも報復の可能性はわかっていただろうからな。しかしジグルドが手を出していた女性が問題だった。妊娠した女性は、ダルソン一味の頭領の娘だったそうだ」
「そうなのですか?」
「ああ、彼女自身はその事実を知らないようだが、間違いない。チンピラ達もどちらに付くのか迷った結果、こうしたようだ」

 ダルソン一味とは、国でも有名な反社会的な勢力である。
 ジグルド様が手を出したのは、その一味の頭領の愛人か何かの子ということだろう。
 そういうことなら、チンピラ達の行動もかなりしっくりくる。彼らの立場からしたら、どちらに味方するかは明らかだ。

「……ジグルドは一体、どのような状態なのですか?」
「命に別状はないが、心の方が問題だな。痛みと恐怖で、壊れてしまったようだ。治るかどうかはわからない」
「なるほど、それで俺しか頼れないという訳ですか……」

 エルクドさんは、ジグルド様を見ながら頭を抱えていた。
 彼も私も、彼には色々と言いたいことがあった訳ではあるが、こんな状態では無駄である。ジグルド様は、既にある種の報いを受けているといえるだろう。
 となると、考えるべきは今後のことだ。エルクドさんが、マルディード伯爵のお願いを受け入れるかどうかは、それなりに重要なことである。

「言っておきますが、俺はあなた達を許した訳ではありません。未だに恨みはあります」
「ああ、それはそうだろう。私も無理な頼みであるということはわかっている」
「ただ、俺はその上であなたの提案に乗るとしましょう。これ以上、あなた達の好き勝手にさせないためにも、ね」

 エルクドさんは、どこか遠くを見つめていた。
 彼の表情からは、決意のようなものが伝わってくる。ジグルド様のような蛮行をこれ以上生み出さない。きっと彼は、そのようなことを思っているのだろう。
 それは悲しい決断である。ただ、彼としてはある種の信念に基づく行動だ。
 私はそれを素敵な行動だと思った。できることなら、彼を支えてあげたい。そんな風に思ったのである。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:475pt お気に入り:6,011

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

恋愛 / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:22

友人が略奪婚したのですが、因果応報で離婚しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:9

残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

恋愛 / 完結 24h.ポイント:18,703pt お気に入り:13,927

不倫して頂きありがとうございます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,213pt お気に入り:372

処理中です...