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12.壊れた生活
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「それで、話というのは?」
「まあ、今後の大まかな方針ですね。とりあえず、エルクドさんのことはラマンダ伯爵家が責任を持って保護します。ジグルド様のことは、マルディード伯爵に働きかけようと思っています。彼があなたに対する愛情を持っているなら、ジグルド様を止めるでしょうからね」
「なるほど、そうなりますか……」
私がお父様と話したことを説明すると、エルクドさんは眉をひそめていた。
彼としては、色々と心配なのだろう。その反応も当然だ。
「エルクドさん、心配なのは理解できますが、ご安心ください。あなたの身柄は、こちらにあるのです。ここにいる限り、あなたは安全です。そして安全が確信できるまで、あなたを放り出したりしませんから」
「ありがとうございます。ラマンダ伯爵家の方々はお優しいですね。まあ、それはわかっていたことですが……」
「そうやって評価していただけていることは、父も喜ぶと思いますよ」
「いえ、評価なんて恐れ多いことです」
私の言葉に、エルクドさんはゆっくりと首を振った。
マルディード伯爵家の血を引いていると判明したが、彼の中ではまだ彼は平民であるのだろう。私達のことも、領主一家と見ているといった所か。
しかしこんな状況であるため、マルディード伯爵は彼のことを認知せざるを得ないだろう。そうなると彼は貴族の一員として扱われる。それも少々、心配な点だ。
「ああ、あなたの故郷にはラマンダ伯爵家の手の者を向かわせます。あなたの周りに追手の危害が及ぶこともないでしょう」
「そうですか。それは安心できます。村の人達は、いい人ばかりですからね」
「何か言づけたいことなどはありますか? 今ならまだ間に合うと思いますけれど」
「ああ、それなら、隣の家のランペックさんに家の畑は放っておいていいと伝えていただきたい。しばらく戻れないようですからね」
「なるほど……」
エルクドさんは、少し落ち込んだ声で私にお願いをしてきた。
農家である彼にとって、畑を放っておくのは心苦しいことであるだろう。
ただ、彼を守るためにはここにいてもらうしかない。申し訳ないことではあるが、作物のことは諦めてもらうしかないだろう。
「本当に申し訳ありません。貴族の勝手で、あなたの生活を壊してしまって……」
「いいえ、あなたが謝るようなことではありませんよ。こうして助けていただいている訳ですからね。むしろ、感謝しています」
エルクドさんの生活は、既に壊れてしまっている。
なんというか、胸が痛い。平和な彼の暮らしが、どうして崩れなければならないのか。それはなんとも、理不尽なことであるだろう。
それを引き起こしたジグルド様のことが、私は益々許せなくなっていた。やはり彼には、何かしらの報いを受けてもらわなければならないだろう。
「まあ、今後の大まかな方針ですね。とりあえず、エルクドさんのことはラマンダ伯爵家が責任を持って保護します。ジグルド様のことは、マルディード伯爵に働きかけようと思っています。彼があなたに対する愛情を持っているなら、ジグルド様を止めるでしょうからね」
「なるほど、そうなりますか……」
私がお父様と話したことを説明すると、エルクドさんは眉をひそめていた。
彼としては、色々と心配なのだろう。その反応も当然だ。
「エルクドさん、心配なのは理解できますが、ご安心ください。あなたの身柄は、こちらにあるのです。ここにいる限り、あなたは安全です。そして安全が確信できるまで、あなたを放り出したりしませんから」
「ありがとうございます。ラマンダ伯爵家の方々はお優しいですね。まあ、それはわかっていたことですが……」
「そうやって評価していただけていることは、父も喜ぶと思いますよ」
「いえ、評価なんて恐れ多いことです」
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マルディード伯爵家の血を引いていると判明したが、彼の中ではまだ彼は平民であるのだろう。私達のことも、領主一家と見ているといった所か。
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「そうですか。それは安心できます。村の人達は、いい人ばかりですからね」
「何か言づけたいことなどはありますか? 今ならまだ間に合うと思いますけれど」
「ああ、それなら、隣の家のランペックさんに家の畑は放っておいていいと伝えていただきたい。しばらく戻れないようですからね」
「なるほど……」
エルクドさんは、少し落ち込んだ声で私にお願いをしてきた。
農家である彼にとって、畑を放っておくのは心苦しいことであるだろう。
ただ、彼を守るためにはここにいてもらうしかない。申し訳ないことではあるが、作物のことは諦めてもらうしかないだろう。
「本当に申し訳ありません。貴族の勝手で、あなたの生活を壊してしまって……」
「いいえ、あなたが謝るようなことではありませんよ。こうして助けていただいている訳ですからね。むしろ、感謝しています」
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なんというか、胸が痛い。平和な彼の暮らしが、どうして崩れなければならないのか。それはなんとも、理不尽なことであるだろう。
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