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11.強靭な体
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私は、エルクドさんがいる客室の前までやって来ていた。
とりあえず彼には、お風呂に入ってもらい、身なりを整えてもらっている。多分、食事も出ているはずだ。
とにかく彼は、過酷な逃亡生活を送っていたようである。本当に命からがら逃げきったという感じだ。
「エルクドさん、アルリナです。入ってもよろしいですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「それでは、失礼します」
本人の許可が取れたので、私は部屋の中に入った。
すると、随分と印象が異なるエルクドさんが見えてきた。
こうして改めてみると、彼はジグルド様とも似ている。やはり二人は、兄弟であるということなのだろう。
「お加減はいかかですか?」
「お陰様で、随分と回復することができました。今ならもう一度走り回れますよ」
「もう走る必要なんてありませんよ。というか、すごい回復力ですね」
エルクドさんは、私に対して明るい笑顔を見せてくれた。
その表情からは、列車内で見ていたような疲労は伝わってこない。すっかり元気になったようである。
彼のために急いで伯爵家に戻ってきたのだが、その道中は満足に休めていた訳ではない。それなのに既に回復しているという事実からは、彼の強靭さが伝わってくる。
「……あら?」
そこで私は、部屋の中にもう一人いることに気付いた。
その男性も、私に穏やかな笑みを向けてきている。
「イルギア、あなたもいたのね?」
「ええ、姉上。エルクドさんから色々と聞いていたのです。父上が姉上に話を聞いていましたからね。こちらは僕の担当ということで」
「なるほど、分担作業という訳ね」
ラマンダ伯爵家の長男である弟のイルギアは、次期当主としてお父様の手伝いをしていたらしい。
それは立派な心掛けである。姉としても誇らしい。
「なんだか安心するわ。あなたが立派にやってくれていると……」
「まあ、僕も姉上が出て行ってから、少しは成長しているからね。さてと、僕は父上にエルクドさんから聞いたことを報告してくるよ」
「ええ、お願いするわね」
イルギアはエルクドさんに軽く会釈した後、部屋から去って行った。
その後ろ姿に笑顔を浮かべていると、エルクドさんが少々居心地が悪そうにしているのが目に入った。姉弟のやり取りを邪魔しないようにしてくれているのだろう。
「さて、エルクドさん、とりあえずお座りください。体調が問題ないなら、二三話したいことがありますので」
「あ、はい。わかりました。それでは、失礼します」
私が声をかけると、エルクドさんは素直に従ってくれた。
彼は少々ぎこちなく椅子に座る。どうやら、貴族の屋敷というものにもまだいまいち馴染めていないようだ。
とりあえず彼には、お風呂に入ってもらい、身なりを整えてもらっている。多分、食事も出ているはずだ。
とにかく彼は、過酷な逃亡生活を送っていたようである。本当に命からがら逃げきったという感じだ。
「エルクドさん、アルリナです。入ってもよろしいですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「それでは、失礼します」
本人の許可が取れたので、私は部屋の中に入った。
すると、随分と印象が異なるエルクドさんが見えてきた。
こうして改めてみると、彼はジグルド様とも似ている。やはり二人は、兄弟であるということなのだろう。
「お加減はいかかですか?」
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エルクドさんは、私に対して明るい笑顔を見せてくれた。
その表情からは、列車内で見ていたような疲労は伝わってこない。すっかり元気になったようである。
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「……あら?」
そこで私は、部屋の中にもう一人いることに気付いた。
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「ええ、姉上。エルクドさんから色々と聞いていたのです。父上が姉上に話を聞いていましたからね。こちらは僕の担当ということで」
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「なんだか安心するわ。あなたが立派にやってくれていると……」
「まあ、僕も姉上が出て行ってから、少しは成長しているからね。さてと、僕は父上にエルクドさんから聞いたことを報告してくるよ」
「ええ、お願いするわね」
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「あ、はい。わかりました。それでは、失礼します」
私が声をかけると、エルクドさんは素直に従ってくれた。
彼は少々ぎこちなく椅子に座る。どうやら、貴族の屋敷というものにもまだいまいち馴染めていないようだ。
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