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4.夫の主張
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「……なるほど」
しばらくの間黙っていたジグルド様は、ゆっくりとそう呟いた。
それは諦めの言葉ということだろうか。しかしそれにしては、彼の顔は晴れやかであるような気もする。
「僕はさ、博愛主義者なんだよ」
「……はあ?」
そこでジグルド様は、いきなりそんなことを言ってきた。
その言葉に対して、私は思わず変な声を出してしまう。あまりの驚きに、使ったことがない声が自然と出てきたのだ。
「結婚している訳ではあるが、僕は君だけを愛することはできない。僕の愛は平等だからね。全ての人々に分け隔てなく与えられなければならないんだ」
「……」
ジグルド様の言葉に、今度は何も言えなくなっていた。
彼は一体、何の話をしているのだろうか。正直、訳がわからない。私の思考が、まったく追いついて来ないのだ。
こんな風になるのは、初めての経験である。外国の人と話す時でも、こんな風に理解できないことはないのだが。
「勘違いしないで欲しいんだが、僕は別に君のことを愛していないという訳ではないんだ。博愛主義者だといっただろう? 君のこともきちんと愛するつもりだ」
「……あなたは、何を言っているんですか?」
「僕はあくまでも君にわかってもらいたいんだ。僕の主義というものをね?」
ジグルド様は、私に対して笑ってみせていた。
滅茶苦茶な話をしているというのに、なんとも明るい笑みだ。整った顔立ちなので、絵になる様にも思える。
しかし、そんなことで誤魔化されてはならない。私は厳格に対処しなければならないのだ。
「ジグルド様、一つよろしいでしょうか?」
「……何かな?」
「……あなたがやっているのはただの浮気です。博愛主義と言えば聞こえはいいですが、あなたは単に浮気性なだけではありませんか。それを綺麗な言葉で誤魔化そうとしないでください」
私は、ジグルド様にそう言い切った。
結局の所、彼は開き直って、自分の浮気性を認めさせようとしているのだろう。
そんなことが許されていい訳がない。こんな不誠実な夫など、私やラマンダ伯爵家は不必要なものだ。
「あなたとは離婚させていただきます。とりあえず私は実家に帰ります。これ以上、あなたなんかの傍にはいたくありませんからね」
「ま、待ってくれ、アルリナ。僕はただ、君にわかってもらいたかっただけで……」
「もう結構です」
私は、ジグルド様に背を向けた。
元々彼には怒りを覚えていたが、最早呆れ返ってしまっている。
ジグルド様は、最低最悪の人だ。そんなことを思いながら、私はその場を後にするのだった。
しばらくの間黙っていたジグルド様は、ゆっくりとそう呟いた。
それは諦めの言葉ということだろうか。しかしそれにしては、彼の顔は晴れやかであるような気もする。
「僕はさ、博愛主義者なんだよ」
「……はあ?」
そこでジグルド様は、いきなりそんなことを言ってきた。
その言葉に対して、私は思わず変な声を出してしまう。あまりの驚きに、使ったことがない声が自然と出てきたのだ。
「結婚している訳ではあるが、僕は君だけを愛することはできない。僕の愛は平等だからね。全ての人々に分け隔てなく与えられなければならないんだ」
「……」
ジグルド様の言葉に、今度は何も言えなくなっていた。
彼は一体、何の話をしているのだろうか。正直、訳がわからない。私の思考が、まったく追いついて来ないのだ。
こんな風になるのは、初めての経験である。外国の人と話す時でも、こんな風に理解できないことはないのだが。
「勘違いしないで欲しいんだが、僕は別に君のことを愛していないという訳ではないんだ。博愛主義者だといっただろう? 君のこともきちんと愛するつもりだ」
「……あなたは、何を言っているんですか?」
「僕はあくまでも君にわかってもらいたいんだ。僕の主義というものをね?」
ジグルド様は、私に対して笑ってみせていた。
滅茶苦茶な話をしているというのに、なんとも明るい笑みだ。整った顔立ちなので、絵になる様にも思える。
しかし、そんなことで誤魔化されてはならない。私は厳格に対処しなければならないのだ。
「ジグルド様、一つよろしいでしょうか?」
「……何かな?」
「……あなたがやっているのはただの浮気です。博愛主義と言えば聞こえはいいですが、あなたは単に浮気性なだけではありませんか。それを綺麗な言葉で誤魔化そうとしないでください」
私は、ジグルド様にそう言い切った。
結局の所、彼は開き直って、自分の浮気性を認めさせようとしているのだろう。
そんなことが許されていい訳がない。こんな不誠実な夫など、私やラマンダ伯爵家は不必要なものだ。
「あなたとは離婚させていただきます。とりあえず私は実家に帰ります。これ以上、あなたなんかの傍にはいたくありませんからね」
「ま、待ってくれ、アルリナ。僕はただ、君にわかってもらいたかっただけで……」
「もう結構です」
私は、ジグルド様に背を向けた。
元々彼には怒りを覚えていたが、最早呆れ返ってしまっている。
ジグルド様は、最低最悪の人だ。そんなことを思いながら、私はその場を後にするのだった。
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