博愛主義と言えば聞こえはいいですが、あなたのはただの浮気性です。

木山楽斗

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2.夫を追いかけて

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 若い女性と別れたジグルド様は、店を出てそのままどこかへ歩き始めた。
 私は、それを追跡している。彼のことを尾行することに決めたのだ。

「……ゼムールさん、付き合わせてしまって申し訳ありません」
「いいえ、私の仕事はお嬢様を支えることですからね。旦那様からも、有事の際は動くようにと言付かっています」

 私は、買い物について来ていた執事のゼムールさんとそのような会話を交わしていた。
 彼は実家であるラマンダ伯爵家から父の命令でついて来てくれた人である。今の私にとって、唯一頼れる存在だ。
 そんな彼とともに、私はジグルド様を追いかける。彼は一体、どこに向かっているのだろうか。

「……ジグルド様は、マルディード伯爵家の屋敷に戻っているという感じではありませんよね? どこに向かっているのか、ゼムールさんは何か予想できませんか?」
「屋敷とは方向が違いますからね。しかも、馬車を探しているといった感じでもない。正直な所、見当もつきません。ただ人目を気にしていますから、それなりにやましいことなのではないかと思います」
「そうですよね……まあこの際ですから、全部暴いてしまいましょう」

 ジグルド様が若い女性と話している際、出て行こうかと悩んだ。
 怒りはあったが、流石に衝動的に出て行ける程、私は勇猛果敢ではなかったのである。そうやって悩んでいる内に、ジグルド様は女性と別れてしまったのだ。
 結果的には、それはよかったのかもしれない。ジグルド様には、まだ何か秘密がありそうだ。

「む、お嬢様、あれは……」
「……え?」

 そんなことを考えていると、ジグルド様の方に動きがあった。
 彼は、少し小走りで駆けて行く。彼が向かう先には、先程とは別の女性がいる。

「ま、まさか、彼女とも……?」
「……そうかもしれませんね」

 身なりからして、あの女性も恐らく平民であるだろう。
 年齢は、三十代後半くらいだろうか。私やジグルド様よりもそれなりに年上に見える。
 ジグルド様は、彼女とも関係を持っているということだろうか。もしかしたら思っていた以上に、彼は浮気性なのかもしれない。

「……やはり、只ならぬ関係のようですね」
「ええ、そうみたいです。ジグルド様、まさかそんな人だったなんて……」

 ジグルド様は、女性と手を繋いで歩き始めていた。あの女性とも関係を持っていると考えて、間違いなさそうだ。
 彼のそんな一面を、私はまったく知らなかった。正直、とても驚いている。
 しかしながら、こうなったからには厳格な対応をするしかない。笑みを浮かべて女性と歩くジグルド様を見ながら、私はそんなことを思うのだった。
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