博愛主義と言えば聞こえはいいですが、あなたのはただの浮気性です。

木山楽斗

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1.夫と女性

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 私はマルディード伯爵家に嫁いできたのは、つい最近のことである。
 とはいえ、夫であるジグルド様とは婚約した時からの付き合いだ。故に、それなりに彼のことは知っていると思っていた。

「あれは……ジグルド様?」

 所用で最寄りの町に出掛けてきた私は、夫であるジグルド様を見つけた。
 フードを目深に被って顔を隠しているが、それでも私にはわかる。あれは間違いなくジグルド様だ。
 彼は今日、どこかに出掛ける用事などはなかったはずである。それなのにどうして町にいるのだろうか。それも、姿を隠すような恰好をして。

「まあ、本人に聞いてみればいいだけよね……」

 少しだけ考えた後、私は至極単純な結論を出した。
 別にジグルド様に遠慮する必要があるという訳もない。声をかけて、本人に理由を尋ねればいいだけだ。

「……え?」

 そう思って歩みを始めた私は、すぐに足を止めることになった。
 ジグルド様の隣に、一人の若い女性を発見したからだ。その女性は、彼に眩しい笑顔を見せている。明らかに只ならぬ関係といった感じだ。

「ま、まさか……」

 私は、二人に見つからないように近づいていく。
 とりあえず、何を話しているかが聞きたかったからだ。
 店の中なので、幸いにも身を隠すものはある。私は物陰から、聞き耳を立てることにした。

「ジグルド様、本当によろしいのですか? こんな高価なものをいただいてしまって」
「ああ、構わないとも、これは僕の本ほんの気持ちさ」
「ありがとうございます」

 ジグルド様は、女性の首にネックレスのようなものをつけていた。その光景は、恋人同士といった感じだ。
 しかしジグルド様は、私の夫である。そんな彼が、女性とそんな風に接するというのは、私に対する明らかな裏切りだ。

「君によく似合っているよ」
「そ、そうでしょうか?」

 私は、相手の女性をよく観察してみた。
 身なりからして、彼女は恐らく平民である。この辺りで暮らしている町娘だろうか。年齢は二十代前半、いや十代後半といった感じだ。
 つまりジグルド様は、領地の少女に粉をかけているということだろうか。それはなんというか、由々しき事態である。

「よし、それではこれを購入するとしよう……さて、できることなら、君ともう少しこうして過ごしていたいんだね。生憎、僕には時間がない」
「お気遣いしていただけるのは嬉しいですが、どうかお気になさらないでください。ジグルド様がお忙しいことは、わかっていますから」

 二人は、親しそうにそのようなやり取りを交わしていた。
 その様子を見ながら、私は考える。これからどうしていくべきかを。
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