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73.久し振りの帰宅
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色々とあった結果、私はしばらく実家であるエリトン侯爵家の屋敷に帰っていなかった。
随分と久し振りに帰って来た我が家は、私のことを温かく迎えてくれた。王族との婚約という手土産には、お父様やお母様も喜んでくれているようだ。
ただ、そんな二人と比べてお兄様は少し不機嫌そうだった。一体どうしたのだろうか。私はとりあえず話を聞いてみることにした。
「リルティアがここに帰って来るのは、久し振りだね?」
「え? ええ、まあ、そうですね」
「寂しかったというのは、少々情けない話ではあるかな?」
「そ、そうですか……」
私がお茶に誘うと、お兄様は快く受け入れてくれた。
心なしか嬉しそうにしているし、本人が言っている通り寂しかったということだろうか。
そういえば、お兄様はそれなりに寂しがり屋である。そんなことは、すっかりと忘れていた。とはいえ、今回はどうにもいつもより変な気がする。
「ラフェシアの所には、よく行っていたみたいだね。彼女から連絡があったよ」
「え? ああ、そういえばそうですね。ラフェシア様とは、何度も会っています……というか、この屋敷から出発した理由は、そもそもラフェシア様が開くお茶会に参加するためだった訳で」
私がエリトン侯爵家の屋敷を経ったのは、メルーナ嬢から話を聞くためだった。
それから暗殺の事件があって、それの首謀者を裁き、次期国王を見定めて、メルーナ嬢の失踪があって。私はやっと家に帰って来たのである。
思えば、長い旅だった。そう考えると、体に疲れがのしかかってきた。あちこちと行った訳だし私もかなり疲れているのかもしれない。
「ラフェシアもあれからこっちには来ていないし、本当に寂しかったよ」
「ああ、それはまあ、メルーナ嬢のことがありましたからね。今も彼女のためにあちらの屋敷に留まっていますし……」
「友達思いであることは、誇らしいことだと思うのだけれど……」
お兄様が落ち込んでいるのは、ラフェシア様が来ていないことも関係しているようだった。
メルーナ嬢の関係で、彼女はどこにも行かずにディートル侯爵家の屋敷に留まっている。いつでもメルーナ嬢が、訪ねて来ても良いようにそうしているのだ。
それは彼女の優しさの表れなので、お兄様もなんとも言えなくなっているのだろう。しかし事情をある程度知っているお兄様なら、色々とできることはあったのではないだろうか。
「寂しかったなら、お兄様の方からラフェシア様を訪ねれば良かったのではありませんか? 色々と協力することもできたでしょうし……」
「いや、色々と取り込み中かもしれないし、気が引けてね。メルーナ嬢の失踪については、後から知ったからね……まあ、ラフェシアから手紙が届いてからは、こっちはこっちで探していて忙しくて」
「難儀なものですね、お兄様も……まあ、もう少ししたらラフェシア様も自由になりますよ」
「それなら、安心だ。しかし、お前はまたすぐに出て行ってしまうのだろうな」
「本格的に出て行くのは、もう少し先の話ですよ」
私はお兄様の言葉に、ゆっくりと頷いた。
イルドラ殿下との婚約、それは大きなことだ。このエリトン侯爵家の屋敷で過ごす時間も、後少しかもしれない。そう思うと、少しだけしんみりとしてしまった。
随分と久し振りに帰って来た我が家は、私のことを温かく迎えてくれた。王族との婚約という手土産には、お父様やお母様も喜んでくれているようだ。
ただ、そんな二人と比べてお兄様は少し不機嫌そうだった。一体どうしたのだろうか。私はとりあえず話を聞いてみることにした。
「リルティアがここに帰って来るのは、久し振りだね?」
「え? ええ、まあ、そうですね」
「寂しかったというのは、少々情けない話ではあるかな?」
「そ、そうですか……」
私がお茶に誘うと、お兄様は快く受け入れてくれた。
心なしか嬉しそうにしているし、本人が言っている通り寂しかったということだろうか。
そういえば、お兄様はそれなりに寂しがり屋である。そんなことは、すっかりと忘れていた。とはいえ、今回はどうにもいつもより変な気がする。
「ラフェシアの所には、よく行っていたみたいだね。彼女から連絡があったよ」
「え? ああ、そういえばそうですね。ラフェシア様とは、何度も会っています……というか、この屋敷から出発した理由は、そもそもラフェシア様が開くお茶会に参加するためだった訳で」
私がエリトン侯爵家の屋敷を経ったのは、メルーナ嬢から話を聞くためだった。
それから暗殺の事件があって、それの首謀者を裁き、次期国王を見定めて、メルーナ嬢の失踪があって。私はやっと家に帰って来たのである。
思えば、長い旅だった。そう考えると、体に疲れがのしかかってきた。あちこちと行った訳だし私もかなり疲れているのかもしれない。
「ラフェシアもあれからこっちには来ていないし、本当に寂しかったよ」
「ああ、それはまあ、メルーナ嬢のことがありましたからね。今も彼女のためにあちらの屋敷に留まっていますし……」
「友達思いであることは、誇らしいことだと思うのだけれど……」
お兄様が落ち込んでいるのは、ラフェシア様が来ていないことも関係しているようだった。
メルーナ嬢の関係で、彼女はどこにも行かずにディートル侯爵家の屋敷に留まっている。いつでもメルーナ嬢が、訪ねて来ても良いようにそうしているのだ。
それは彼女の優しさの表れなので、お兄様もなんとも言えなくなっているのだろう。しかし事情をある程度知っているお兄様なら、色々とできることはあったのではないだろうか。
「寂しかったなら、お兄様の方からラフェシア様を訪ねれば良かったのではありませんか? 色々と協力することもできたでしょうし……」
「いや、色々と取り込み中かもしれないし、気が引けてね。メルーナ嬢の失踪については、後から知ったからね……まあ、ラフェシアから手紙が届いてからは、こっちはこっちで探していて忙しくて」
「難儀なものですね、お兄様も……まあ、もう少ししたらラフェシア様も自由になりますよ」
「それなら、安心だ。しかし、お前はまたすぐに出て行ってしまうのだろうな」
「本格的に出て行くのは、もう少し先の話ですよ」
私はお兄様の言葉に、ゆっくりと頷いた。
イルドラ殿下との婚約、それは大きなことだ。このエリトン侯爵家の屋敷で過ごす時間も、後少しかもしれない。そう思うと、少しだけしんみりとしてしまった。
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