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72.彼女の決断

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「……私は」

 ウォーラン殿下とイルドラ殿下の言葉を受けて、メルーナ嬢は目を瞑っていた。
 それは恐らく、何かを考えているのだろう。いや、今までのことを思い出しているのかもしれない。
 とにかく彼女には、整理する時間が必要であるだろう。私達は黙ってそれを待つ。

「私は、許されても良いのでしょうか?」
「許す許さないの話ではありません。あなたには罪などはないのですから」
「そこまで言っていただける程、私は清廉潔白ではありません。これでも、色々と思惑があったのです。私もアヴェルド殿下との関係を利用していた一人です」
「いいえ、あなたはただアヴェルド兄上の思惑に惑わされていただけです。それを僕達は止めることができなかった……」
「いえ、そんなことは……」

 メルーナ嬢とウォーラン殿下は、お互いに譲れないようだった。
 しかし実際の所、二人のどちらかが悪いという話でもないだろう。二人はお互いに、巻き込まれたというだけだ。
 諸悪の根源はアヴェルド殿下や、ラウヴァット男爵だといえる。ただ、その二人は既に亡くなっているため、二人ともやり場のない思いを抱えているのだろう。

 それはきっと、イルドラ殿下も同じだ。手を繋いでいるからか、なんとなく彼の思いが伝わってくるような気がする。
 私の役目は、そんなイルドラ殿下を支えることであるだろう。彼が背負おうとしているものを、私も背負ってみせる。
 次期国王夫妻として、それはきっと必要なことだ。私達は、これから支え合って生きていくべきなのである。

 メルーナ嬢やウォーラン殿下にも、そうやって支えてくれる存在が必要であるだろう。
 いやそれはもしかしたら、二人にとってはお互いなのかもしれない。今の二人を見ていると、そう思えてくる。

「……これでは、話が終わりませんね」
「そうですね……すみません、僕のせいで」
「いいえ、でもウォーラン殿下は、アヴェルド殿下とは全然違いますね」
「……兄上のようには、なりたくないと思っていますからね。まあ、そう思い始めたのは、最近のことですが」
「それは良いことだと思います」

 メルーナ嬢は、そこでラフェシア様の方を見た。
 恐らく、先程言われたことに答えようとしているのだろう。

「ラフェシア様、私はラウヴァット男爵家の屋敷に戻ろうと思います」
「お兄様と、話すことはできそう?」
「ええ、改めて話をしようと思います」

 メルーナ嬢の表情は、先程までと比べると幾分か明るくなっていた。
 今の彼女なら、きっと大丈夫だろう。未来に進んでいけるはずだ。
 そう思って、私はイルドラ殿下に笑顔を見せる。すると彼も、笑顔を返してくれた。
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