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71.覚悟を決めて
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「……あなたは被害者ですよ」
メルーナ嬢の言葉に、私達は少しの間沈黙していた。
その沈黙を破ったのは、ウォーラン殿下だ。彼は、悲痛な面持ちで言葉を発している。彼も彼で、色々と思う所があるのだろう。それを私は、よく知っている。
「メルーナ嬢、僕はあなたとアヴェルド兄上のことを知っていました」
「それは……」
「知ったのは随分と前の話です。あなたとアヴェルド兄上を見かけて事情を聞きました。その時は単純に付き合っているなどと言われましたが……」
ウォーラン殿下は、過去のことを語り始めた。
それは私も、ある程度は聞いていたことだ。イルドラ殿下はシャルメラ嬢のことを、ウォーラン殿下はメルーナ嬢のことを、それぞれ知っていたのである。
「あの時に事実に気付いていれば、もっと早くに事件を解決できていました。あなたを助け出すこともできた。僕は愚かでした。アヴェルド兄上なんかを信頼するなんて……」
「それについては、俺だって同じだ。シャルメラ嬢のことを知っていたからな」
「イルドラ兄上は、リルティア嬢と協力してアヴェルド兄上達の悪事を暴いたではありませんか。結局僕は、何もできなかった。僕がもっとできる王子であったなら、あれ程の命が奪われることもなかったかもしれない」
ウォーラン殿下は、真面目で誠実な人だ。きっと彼は、身勝手だった自身の兄であるアヴェルド殿下の死さえも、心から悔やんで後悔している。
そして己の非力さを、彼は痛感しているようだった。しかしそれは、仕方ないことだ。私とイルドラ殿下は、彼に意図的に情報を隠していたのだから。
ただ、それは今は言わないでおく。ここで気持ちを晴らすべき人は、ウォーラン殿下ではなくメルーナ嬢だからだ。
「メルーナ嬢、あなたが気に病むことはありません。今回のことは僕の――もっと大きな枠組みで言えば、王家の失態です」
「まあ、それについては同意だ。俺達は馬鹿だった。兄上という悪が近しい所にいたというのに気付かなかった愚か者だ」
王家の二人は、メルーナ嬢に対してそのように言葉を発していた。
彼女が感じている責任を、背負い込むつもりなのだろう。二人は、その覚悟を決めている。
それは私にも、無関係な話ではない。私はイルドラ殿下の婚約者であり、次期王妃だ。私も責任を、背負ってみせる。
「イルドラ殿下……」
「メルーナ嬢……」
私は、イルドラ殿下の手をそっと取った。
それで彼には伝わっただろう。私も覚悟を決めていると。
メルーナ嬢の言葉に、私達は少しの間沈黙していた。
その沈黙を破ったのは、ウォーラン殿下だ。彼は、悲痛な面持ちで言葉を発している。彼も彼で、色々と思う所があるのだろう。それを私は、よく知っている。
「メルーナ嬢、僕はあなたとアヴェルド兄上のことを知っていました」
「それは……」
「知ったのは随分と前の話です。あなたとアヴェルド兄上を見かけて事情を聞きました。その時は単純に付き合っているなどと言われましたが……」
ウォーラン殿下は、過去のことを語り始めた。
それは私も、ある程度は聞いていたことだ。イルドラ殿下はシャルメラ嬢のことを、ウォーラン殿下はメルーナ嬢のことを、それぞれ知っていたのである。
「あの時に事実に気付いていれば、もっと早くに事件を解決できていました。あなたを助け出すこともできた。僕は愚かでした。アヴェルド兄上なんかを信頼するなんて……」
「それについては、俺だって同じだ。シャルメラ嬢のことを知っていたからな」
「イルドラ兄上は、リルティア嬢と協力してアヴェルド兄上達の悪事を暴いたではありませんか。結局僕は、何もできなかった。僕がもっとできる王子であったなら、あれ程の命が奪われることもなかったかもしれない」
ウォーラン殿下は、真面目で誠実な人だ。きっと彼は、身勝手だった自身の兄であるアヴェルド殿下の死さえも、心から悔やんで後悔している。
そして己の非力さを、彼は痛感しているようだった。しかしそれは、仕方ないことだ。私とイルドラ殿下は、彼に意図的に情報を隠していたのだから。
ただ、それは今は言わないでおく。ここで気持ちを晴らすべき人は、ウォーラン殿下ではなくメルーナ嬢だからだ。
「メルーナ嬢、あなたが気に病むことはありません。今回のことは僕の――もっと大きな枠組みで言えば、王家の失態です」
「まあ、それについては同意だ。俺達は馬鹿だった。兄上という悪が近しい所にいたというのに気付かなかった愚か者だ」
王家の二人は、メルーナ嬢に対してそのように言葉を発していた。
彼女が感じている責任を、背負い込むつもりなのだろう。二人は、その覚悟を決めている。
それは私にも、無関係な話ではない。私はイルドラ殿下の婚約者であり、次期王妃だ。私も責任を、背負ってみせる。
「イルドラ殿下……」
「メルーナ嬢……」
私は、イルドラ殿下の手をそっと取った。
それで彼には伝わっただろう。私も覚悟を決めていると。
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