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63.無駄な抵抗

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「悪いが、入らせてもらうぜ?」
「……イルドラ殿下、このような訪問は無礼であると思いませんか?」
「無礼と言われてもな。こちらには大義名分というものがある。モルダン男爵家は被害者でもあるが、兄上との癒着に関しては加害者側だ。それを忘れないでもらいたい」

 私達が訪ねると、サジェードはすぐに出てきた。
 彼は、焦ったような顔をしている。それは何かしら、やましいことがあるからだろう。
 それが、メルーナ嬢のことであるかはわからない。人に見られたくないものなんて、いくらでもある。彼が単純に、個人的な秘め事について焦っているだけかもしれない。

「しかしながら、こちらにも準備というものが……」
「準備をされたら、こちらは困るんだよ。ただでさえ、色々とあって調査が遅れてしまっているからな。そう考えると、既に準備なんてできているんじゃないか?」
「調査というなら、一度行われているでしょう」
「もっと詳しく調べるということだ。あの時はこちらもごたごたしていた。それは何よりあなたが、わかっているはずだ」

 イルドラ殿下の言葉に対して、サジェードは抵抗する意思を見せてきた。
 どうやら彼には、人には絶対に知られたくない秘密の類があるらしい。ここまで抵抗するということは、やはり犯罪の類に思えてしまう。

「言っておくが、そちらが何を言おうとも調査は実行する」
「なっ……!」

 イルドラ殿下が手を上げると、周囲の騎士達は一斉に動き出した。
 色々とあった訳ではあるが、一応正式に許可は得られている。サジェードが何を言おうとも、無駄なのだ。

「やめろ! 僕の屋敷を勝手に調べるな!」

 しかしながらサジェードは、騎士達を止めようと声を上げ始めた。
 彼のその態度は、異常ともいえる。やはりここにメルーナ嬢がいる可能性は高そうだ。

「兄上、僕も行きます」
「ああ……」

 そんなサジェードを気にすることもなく、ウォーラン殿下は屋敷の奥の方に駆けて行った。
 弟を見送りながら、イルドラ殿下はサジェードを睨みつける。彼はここに残って、話を続けるつもりであるようだ。

「サジェード、何かやましいことがあるなら素直に打ち明けた方がいい。隠していてもいいことはないぞ?」
「ぼ、僕は別に何も……」
「認めないというなら、それでもいい。ただ、逃げられるなんて思わない方がいい。騎士達の調査は厳重だ。この屋敷の全てを暴くだろう」

 イルドラ殿下は、冷たい視線をサジェードに向けていた。
 それに彼は、ゆっくりと項垂れる。罪を告白するべきか、考えているのだろうか。
 しかし、中々に言葉は出てこなかった。どうやら彼には、そういった勇気はなかったようである。
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