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54.御者の証言

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 王城に戻って来た私は、早速イルドラ殿下に何が起こったかを伝えた。
 出て行く前にウォーラン殿下がある程度の事情を使用人に伝えていたため、イルドラ殿下にも既に事態は伝わっていたようである。彼は色々と、準備をしてくれていたようだ。
 そのため、すぐにメルーナ嬢を乗せた馬車の御者とコンタクトが取れた。その御者は、私から話を聞いて目を丸めて驚いている。反応だけ考えると、何も知らなかったということだろうか。

「ま、まさかそのようなことになっていたなんて……思ってもいませんでした」
「ゼオットさんといいましたか。あなたは、メルーナ嬢をどこに送り届けたのですか?」
「メルーナ様は、途中で行き先を変更して欲しいと言ってきました。その行き先は、ヴェルナルゼという町でした」
「ヴェルナルゼ、ですか」

 御者の言葉に、私は首を傾げることになった。
 この国にある町の名前を当然全て覚えられているという訳でもない。町の名前を聞いても、まったく持ってピンとこないのだ。

「イルドラ殿下、その町をご存知ですか?」
「……悪い。俺にもわからない。勉強不足だな」

 イルドラ殿下も、その町についてはよく知らないようだった。
 これには御者のゼオットさんも、困った顔をしている。これ以上なんと説明したらいいのか、彼の方もよくわかっていないらしい。

「……ヴェルナルゼは、モルダン男爵家の領地にある町ですよ」
「え?」
「エルヴァン……」
「モルダン男爵家の領地の中では、三番目くらいに大きな町ですね。もっとも、それ程大きな町ではありません。村というには発展しているようですが、中途半端な所であるようです」

 そんな私達の前に現れたのは、第四王子であるエルヴァン殿下だった。
 彼は、特に資料も見ずにヴェルナルゼという町の解説をしてくれる。読書家の彼のことだ。その辺りも本で仕入れた知識だろうか。

「話は既に聞いています。メルーナ嬢が行方不明になったようですね」
「ああ、お前も既に動いていたのか?」
「いいえ、動き出したのはリルティア嬢が王城に戻って来たのを聞いてからです。イルドラ兄上が準備しているのですから、僕が余計なことをして混乱を招きたくなかった」
「お前らしい冷静な判断だな。流石だ」
「別に褒められるようなことではありませんよ」

 エルヴァン殿下は、真剣な顔をしていた。
 彼もメルーナ嬢のことを、とても心配しているということが伝わってくる。
 そんな彼の助力は、もちろんありがたい。また一人心強い味方が得られたようだ。
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