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48.心情的な問題として

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「いや、単純に心情的な問題として問いかけておきたいんだ。リルティア嬢からしてみれば、俺のようなひねくれ者は快く思えないのではないかと思ってな」
「ひねくれ者、ですか?」

 イルドラ殿下は、私の様子をちらちらと見ながら言葉を発していた。
 自分という存在に、あまり自信が持てていないのだろうか。なんというか、自己評価が低い気がする。
 それに私は、少し驚いていた。イルドラ殿下は、失礼ながらもっと軽薄な感じとばかり思っていたからだ。

「イルドラ殿下は、ひねくれ者ではないと思いますが……むしろ、真っ直ぐな方だと思います」
「……そうだろうか?」
「アヴェルド殿下のことが露呈した時――ベランダで話した時のことを覚えていませんか?」
「あの時のこと?」

 とりあえず私は、以前のことを問いかけてみることにした。
 彼は困っている私を助けてくれると言った。それに私は、対価は何かと聞いたのである。
 それに対して、彼は口ごもっていた。それは対価などは求めていなかったからだ。彼は困っている人を見過ごせない真っ直ぐな人であると思う。

「……あの時俺は、対価は君の笑顔で充分だ、みたいなことを言っていたか」
「え? ああ、そんなことも言いましたね」
「我ながらキザというか、なんとも浮ついたことを言っていたものだ……」

 イルドラ殿下は、頭を抱えていた。
 私が言いたかった訳ではない部分で、ショックを受けているようだ。
 確かに、そのようなことは言っていたような気がする。ただそれは、誤魔化すための言葉だろう。別に心からの言葉という訳でもないはずだ。

「私が言いたかったのは、そういったことではありません。イルドラ殿下が、お優しい方だということです」
「……何?」
「イルドラ殿下は、私のことを助けてくださいました。それは善意からの行動です」
「……そういう訳でもないさ。あれは単純に、王位を手に入れられるからだ」
「そんな風に誤魔化す所も含めて、お優しい人であると思います。ただイルドラ殿下は、お優しいだけではありません。時には非情な判断も下せる、立派な王族です」

 私の口からは、すらすらと言葉が出てきていた。
 私は自分で思っていた以上に、イルドラ殿下のことを評価していたらしい。

 ただ、それは自分の中では納得できることではあった。そもそもこの話を持ち掛けられて最初に誰の顔が思い付いたか、それに思い至ったのだ。
 私は最初から、イルドラ殿下を選びたかった。それは王位に相応しいかどうかなどではなく、単に私の個人的な感情として。
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