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36.王太子の罪

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「アヴェルド、お前はオーバル子爵家のネメルナ嬢、モルダン男爵家のシャルメラ嬢、ラウヴァット男爵家のメルーナ嬢、その三名と関係を持っていたそうだな?」
「な、何のことだか……」

 国王様はアヴェルド殿下の方を向き、淡々と事実を指摘した。
 それに対して、アヴェルド殿下は焦っている。当然のことながら、それらは知られてはならないことだからだろう。

 ただ、そんな彼以上に表情を変えている者が、この場には一人いた。
 それは現在、アヴェルド殿下と婚約関係にあるネメルナ嬢だ。
 彼女は目を見開いている。信じられないというような表情だ。やはりネメルナ嬢は、その事実について何も知らないらしい。

「見苦しいぞ、アヴェルド。お前には王家としての誇りすらないのか?」
「王家としての誇りを持っている私が、三名もの女性と関係を持っていたりする訳がないではありませんか。そんなことは、父上だってわかっているはずです」
「……仕方ないか」

 アヴェルド殿下の言葉に、国王様はゆっくりと手を上げた。
 その手は取りたくなかったのだろう。それは表情からよく伝わってきた。
 その合図によって、玉座の間には一人の女性が現れた。それは私もよく知っているメルーナ嬢だ。

「メ、メルーナ、どうしてここに?」
「……メルーナ嬢、君に一つ問おう。先程私が言ったことに、間違いはないか?」
「はい。間違いありません」

 メルーナ嬢はアヴェルド殿下のことを一瞥することもなく、国王様の言葉に応えた。
 それに対して、アヴェルド殿下は焦ったような顔をしている。彼は恐らく、隣にいるネメルナ嬢の視線など気付いていないだろう。

「それだけではありません。アヴェルド殿下は、私達との関係の対価として、それぞれの貴族の税に関して融通を効かせていました。彼は自分の欲望のために、その権力を利用したのです」
「そ、そんなことは真っ赤な嘘だ! 父上、その女は私を嵌めようとしている。これは陰謀です!」
「見苦しいぞ、アヴェルド」
「あうっ……」

 必死に弁明していたアヴェルド殿下だったが、彼の勢いはすぐに収まった。父親である国王様の鋭い視線に、耐えられていないようだ。
 二人の親子関係について、私はよく知っている訳ではない。ただ、アヴェルド殿下は父親に逆らえるようなタイプではないようだ。明らかに委縮している。
 ただ私は、そんな彼の隣にいるネメルナ嬢のことが気になっていた。彼女はずっと、アヴェルド殿下を見つめている。その視線は、とても鋭い。彼女は一体、何を考えているのだろうか。
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