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30.二人の安否

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 ディートル侯爵家の屋敷で一夜を明かした訳だが、正直あまり眠ることはできなかった。
 アヴェルド殿下の女性関係において、何かしらの陰謀が渦巻いている。その不安から、中々寝付けなかったのだ。
 とはいえ、当事者として数えられているか怪しい私の不安など、そう大したものではない。メルーナ嬢などと比べると、些細なものだ。

「おはようございます、ラフェシア様、それにメルーナ嬢も」
「ええ、おはよう、リルティア」
「おはようございます、リルティア嬢」

 私が食堂に赴くと、既にラフェシア様とメルーナ嬢がいた。
 二人は、何やら神妙な面持ちをしている。そういった表情をしているということは、何か良くないことでもわかったのだろうか。

「ラフェシア様、何かありましたか?」
「使用人達が調べた結果、モルダン男爵とシャルメラ嬢のことがわかったわ」
「……二人に何かあったのですか?」
「ええ、亡くなったそうよ」
「……そうですか」

 ラフェシア様の言葉に、私はゆっくりとため息をついた。
 私の推測は、当たっていたということになるのだろうか。正直、まったく嬉しくはない。むしろ、頭が痛くなってくる。

「あなたの推測は、間違っていなかったみたいね……」
「ええ……ただ、昨日ずっと考えていたのですけれど、今回の首謀者はアヴェルド殿下とは限らないのかもしれません」
「それは、どういうこと?」
「オーバル子爵の可能性もあると思うんです」

 私は二人に、考えていたことを話してみることにした。
 アヴェルド殿下のことを考えて、私は改めて思ったのだ。彼に暗殺などという大それたことが、本当にできるのかと。
 あの中途半端な小心者に、それができるとはあまり思えない。それなら、アヴェルド殿下と同じく、二家を邪魔に思うであろうオーバル子爵の方が、可能性が高いと思ったのだ。

「なるほど……どちらにしても、メルーナをラウヴァット男爵家に帰らせることは得策ではないわね。この子のことは、ディートル侯爵家が責任を持って守ってみせるわ」
「ラフェシア様、ありがとうございます。私なんかのために、そこまでしていただいて」
「気にする必要なんてないわ。私達は、友達なのだから」

 ディートル侯爵家が守ってくれるなら、一先ず安心することはできそうだ。
 侯爵家の守りをすり抜けて暗殺するなど、簡単なことではない。充分に警戒もされるだろうし、大丈夫そうだ。

「ラフェシア様、そういうことなら私は王城に向かおうと思います」
「王城に?」
「ええ、イルドラ殿下にメルーナ嬢から教えてもらったことを伝えます。そして彼に協力して、今回の件を終わらせます」

 私がやるべきことは、決まっている。
 アヴェルド殿下の身勝手から始まったこの件を、終わらせることだ。
 それは最早、エリトン侯爵家の利益とかイルドラ殿下への義理とか、そういった問題ではない。私はこんなふざけたことをした者達に、心の底から罰を受けさせたいと思っているのだ。
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